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2025/08/28
ブランドパーソナリティとは?効果や確立方法を解説
コラム

「ブランドパーソナリティを確立したいものの、具体的なやり方が分からない」とお悩みではありませんか?ブランドパーソナリティとは、ブランドを人に例えたときの性格・個性・人格のことです。これを明確にすることで、競合との差別化や顧客との感情的なつながりを築くことができます。
この記事ではブランドパーソナリティの効果や確立方法、成功事例などを解説します。
Contents
ブランドパーソナリティは「ブランドに感じる性格や個性のこと」
ブランドパーソナリティとは、ブランドを人として置き換えた場合に感じられる性格や人格を指します。「どのような人物か」「どういう振る舞いをするか」といったイメージを言語化し、利用者(ターゲット)の理想像から逆算して設計するのが基本です。
例えば、同じく生活雑貨を扱う無印良品とFrancfrancでは、製品ジャンルこそ似ていても、受ける印象は大きく異なります。これが、ブランディングによるブランドパーソナリティの違いです。ブランドの個性を明確にすることで、他社との差別化につながります。


また、ブランドパーソナリティは、顧客だけでなく従業員や求職者にとっても重要な要素です。従業員や求職者がブランドの性格を理解・共感することで、組織の一体感やアイデンティティが強化されます。採用活動において、ブランドパーソナリティを明示することで、自社と求職者とのマッチング精度を向上させる効果が期待できます。
ブランドアイデンティティとの違い
ブランドパーソナリティとブランドアイデンティティとの違いは、表現する要素と役割にあります。
ブランドパーソナリティは、「親しみやすさ」や「信頼感」といった感情的価値を形成するもので、顧客との感情的なつながりを構築します。例えば、あるカフェブランドが「温かさ」や「リラックス感」を表現する場合、接客スタイルや広告メッセージを通じてその価値を伝えます。一方、ブランドアイデンティティは、ロゴやテーマカラー、製品デザインなどの視覚要素を通じてブランドの外観を形づけます。例えば、ロゴにコーヒーカップを採用し、テーマカラーにブラウンを使用することで、視覚的に「温かさ」を伝える工夫ができます。
つまり、ブランドパーソナリティは感情面、ブランドアイデンティティは視覚情報面から、それぞれ異なるアプローチで顧客との関係構築に貢献します。
ブランドパーソナリティの効果
ブランドパーソナリティの効果は、以下の3点です。
競合他社との差別化を実現
ブランドパーソナリティが確立すると、性格的な印象で差別化ができるため、ブランド独自の個性を打ち出すことが可能です。
例えば、Apple社のiPhoneは「無駄がない」「できるだけシンプルに」といったパーソナリティによって、他のスマートフォンのブランドと一線を画しています。また、トヨタ自動車のLEXUS(レクサス)は、洗練されたデザインや顧客体験へのこだわり、日本のおもてなしをグローバルに体現したブランド戦略で、数ある高級車ブランドの中でも高評価を得ています。
このように、機能や性能だけでは伝わらないブランド独自の強い個性が差別化につながります。
顧客の感情移入を促し、愛着を強化
人は、自分と似た特性を持つ対象に親近感を抱きやすいといわれています。感情移入が生まれることで、競合ブランドと比較されず、指名買いされる傾向が強まります。
オートバイメーカーのハーレーダビッドソンの事例では、「男らしさ」「自由」などのブランドパーソナリティが顧客と一致しており、ブランドと顧客の間に深い感情的な信頼関係が生まれています。また、アウトドアブランドのモンベルは、日本の気候でも安全かつ快適にアウトドアが楽しめる高品質なアイテムを低価格で販売していて、若者からシニア層まで幅広い世代に支持されています。
ブランドがユーザーにとって「生活の一部」になることで、売上や継続利用につながります。
豊かなブランド連想を創出
ブランドの強みや価値が機能・性能といった情報だけでは、競合他社と類似した印象になり差別化が難しくなります。しかし、ブランド独自のパーソナリティが加わることで、ブランドへの解釈や印象に多様な連想が生まれます。
例えば、「最新型のすごい車」という認識が、「高級感のある最新型の車」や「おもてなしを感じられる最新型の車」へと広がり、ブランド独自の存在感を確立できます。
さらに、ブランド連想の変化は、最終的にブランド評価や購入意欲の変化にもつながります。
ブランドパーソナリティの確立方法
ブランドパーソナリティを確立するには、さまざまな手順を踏む必要があります。
ここでは、以下の手順でパーソナリティを確立する方法を解説します。
- 自社コアバリューの明確化
- ターゲット顧客の特定
- 形容詞リストでブランドイメージの言語化
- ディメンションフレームワークで分類
- アーキタイプフレームワークによる人物像への落とし込み
- ブランドパーソナリティの確立
- 継続的な評価・進化の組込み
自社コアバリューの明確化
誠実・情熱・創造性など、ブランドパーソナリティの起点となる価値観を明文化します。コアバリューはブランドのトーン・メッセージ・ビジュアルにも影響を与えるので、社内外に共有しやすい言葉で表現することが重要です。社内にいる複数人の視点を集め、企業の文化や行動原則と結びつけて定義しましょう。
ターゲット顧客の特定
ブランドが提供する価値を最も必要とするターゲット顧客をペルソナに設定します。「20代女性の美容関心層」「BtoBでDXに悩む中堅企業」など、顧客像の性格・嗜好・ライフスタイルからブランドの性格を設計します。新たに考えるのではなく、「既存顧客と似たパーソナリティ」を設定することで、顧客の共感や愛着を得やすくなります。
ターゲットが抱く理想像をもとに、ブランドの人格を綿密に構築しましょう。
形容詞リストでブランドイメージの言語化
プロジェクトメンバーでブレインストーミング(ブレスト)など行い、上品・革新的・軽快など、ブランドを形容する言葉・キーワードをできるだけ多く書き出します。この段階では直感を重視し、数を出すことが重要です。複数のメンバーから同じキーワードが挙がった場合、それがブランド印象の核となる可能性があります。
なお、洗い出しのブレストは、10分間など時間を区切ることがおすすめです。長時間考え込むのではなく、短時間で直感的な印象やイメージを引き出しましょう。
ディメンションフレームワークで分類
前述のブレストで洗い出されたキーワードのリストを、ディメンションフレームワーク(5つの基本軸)に基づいて、分類します。ディメンションフレームワークとは、アメリカの行動科学者であるジェニファー・アーカー氏が提唱した手法で、 「誠実」「刺激」「能力」「洗練」「頑丈」という5つの軸のうち、自社ブランドがどこにあてはまるのか選ぶ方法です。

ここでは、ブレストで挙げられたリストを5つの軸に振り分けていきます。(以下例)
- 誠実:信頼、親しみ
- 刺激:創造、冒険
- 能力:知性、聡明
- 洗練:上品、高級
- 頑丈:力強い、タフ
振り分けられたキーワードが特に多かった軸がブランドパーソナリティの方向性となります。
アーキタイプフレームワークによる人物像への落とし込み
ディメンションフレームワークでブランドパーソナリティの方向性を絞り込んだら、ユング心理学に基づくアーキタイプフレームワーク(12の人格原型)に基づいて、より詳細なブランドに合う人物像を設定します。
設定する際は、顧客が憧れる・共感する人物像をもとに、ブランドの性格を決めます。例えば、ドイツの高級自動車ブランド・メルセデス・ベンツは、お金持ちになったら乗りたいと思う高級外車というイメージや、客層の多くが経営者(高所得者)であることから「支配者→安定・自信」と設定できます。
「人物像→価値観→キーワード→ブランドパーソナリティ」の流れで連想を深めることが重要です。

ブランドパーソナリティの確立
個性を設定してより明確なブランドパーソナリティを確立します。個性は、以下のようにブランドらしい肯定語とらしくない否定語の両軸をあわせて3~5つ選定します。
肯定語:洗練、革新的、情熱的
否定語:消極的、真面目すぎる、冷たい
肯定語と否定語の両軸を設けることで、顧客は「このブランドならこう振る舞う」と判断しやすくなり、ブランドの境界線が明確になります。
ここの工程を経て、ブランドパーソナリティの確立が完了します。
継続的な評価・進化の組込み
確立したブランドパーソナリティは、活用していかなければ意味がありません。活用するためにスタイルガイドを作成します。ブランドカラー・トーン・フォント・言葉遣いなどを詳細に文書化しましょう。完成したスタイルガイドは、営業やマーケティングだけでなく、社内すべてのチームに連携・トレーニングを行い、共通理解を育てます。
また、顧客の反応や市場の変化に応じて、定期的にパーソナリティを見直すことも重要です。変化する市場やそれに合わせて変更するブランディングとのブレを防ぎ、効果を最大化しましょう。
ブランドパーソナリティを確立するポイント
ブランドパーソナリティを確立するときは、以下の3点を意識することで、ブランドパーソナリティがより効果を発揮します。
ペルソナ(理想の顧客像)や人物像の設定
ブランドパーソナリティは、「人間ならどのようなタイプか」を具体的にイメージしながら検討することが大切です。具体的にするためには、理想の顧客像をペルソナとして設定することをおすすめします。ペルソナを設定することで、どのような価値観を持っているか、好みは何か、何に共感するのか、といった深堀りが可能になります。そして、ペルソナに近い人格をブランドパーソナリティにすることで、ブランド戦略にも効果的になります。

なお、たくさんの人に好きになってもらいたい、と八方美人のようなブランドパーソナリティにすると誰からも共感を得られない可能性があります。本当に好きになってもらいたい人(ターゲット)は明確にしておきましょう。全員から好かれるブランドは存在しないため、明確な個性を設定して「選ばれる理由」を作ります。
五感に訴える表現の一貫性を意識
ブランドから発信する表現には、一貫性を持たせることが非常に重要です。ブランドは、様々な手段や状況で顧客に届きます。そのなかでも、ブランドパーソナリティ(ブランド性格)は無意識下でも視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった五感を通じて伝わります。
- 視覚:パッケージ、広告、ロゴ、店舗デザイン、スタッフの表情
- 聴覚:商品音、広告コピー、店舗のBGM、コールセンターでの対応
- 触覚:商品の素材感、パッケージの手触り、名刺の質感
- 味覚:食品の味や後味(食品関連の場合)
- 嗅覚:製品や店舗の香り
もし、ブランドの表現に一貫性が欠けていると、顧客は無意識のうちに違和感や不自然さを感じ、それがブランドへの信頼や好意を損なう要因になる可能性があります。逆に、五感を通じた体験が一貫していることで、顧客にポジティブな感情を与え、「このブランドは信頼できる」「好きだ」と感じてもらうことができます。
さらに、一貫した感覚体験の設計は、ブランド好感度や購入意欲に直結します。そのため、ブランド体験全体を通じて「人となり」を感じさせることが重要です。
インターナルブランディングと連動した人材獲得
ブランドパーソナリティは、企業のバリューを体現する人格的特徴と捉えられるため、自社のブランドパーソナリティに近い人物像を採用することで、組織文化の一貫性を強化できます。
パーソナリティに共感したことで入社した人材は、ブランド価値を内面化しやすく、行動にも反映されやすいです。また、人材がカルチャーフィットすると、ブランドパーソナリティが長期的にわたり持続・強化しやすくなります。
なお、採用から定着、実践の循環を支えるのがインターナルブランディングであり、従業員の理解と共感を促進する役割を担います。単なる理念共有ではなく、「なぜそれが大切か」という背景理解に重きを置くことで、従業員の心理的な納得感を高められるでしょう。
従業員が価値観や目標を自分ごととして捉えると、業務に意義や誇りを見出すことができ、エンゲージメントや業務意欲が向上します。
インターナルブランディングについては「インナーブランディングとは?目的や企業の成功事例を紹介」で、従業員エンゲージメントについては「従業員エンゲージメントとは?企業での向上施策やメリットを解説」で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
ブランドパーソナリティの成功事例
ブランドパーソナリティの成功事例を2つご紹介します。
飯尾醸造
飯尾醸造のブランドパーソナリティは、「誠実さ」「職人魂」「共感」「正直さ」「地域とともに生きる精神」が中心です。
飯尾醸造は、創業以来130年にわたり、お酢の原料となる米づくりから手がけ、無農薬・無化学肥料栽培、伝統の静置発酵による製法を守り続ける姿勢には、「真摯なものづくり」への強いこだわりが貫かれています。品質に一切の妥協を許さず、製品ごとの原材料や製法までフルオープンで開示する透明性も、ブランドの信頼性を高めています。
さらに、「モテるお酢屋。」という経営理念のもと、顧客・社員・地域・契約農家・取引先など6つのステークホルダーすべてから愛される存在を目指しており、地元に根差したレストランや体験型イベントなども展開。商品だけでなく、“豊かな食と暮らし”というライフスタイル全体を提案するブランドとしてファンを獲得しています。
「売り込まずに共感で広がる」戦略を徹底する姿勢は、大量生産・大量消費とは真逆を行く、独自性の高いブランドパーソナリティを確立し、熱狂的なリピーターや国内外のミシュランシェフからの支持にもつながっています。
出典:日本事務器 100周年記念サイト「モテるお酢屋 飯尾醸造 飯尾彰浩さん」
出典:賢者の選択 サクセッション「「自分から売り込まない」「田植えをエンタメ化」…京都で130年続くお酢屋の5代目が打ち出した“逆転の発想”』
日本鋳鉄管株式会社
日本鋳鉄管株式会社は、「誠実」「真面目」「社会貢献志向」「挑戦心」「未来志向」といったブランドパーソナリティを持っています。
日本鋳鉄管株式会社は、水道管やガス管など生活インフラを支える老舗メーカーとしての信頼を土台に、経営危機をきっかけに「自社らしさ」を見つめ直し、ブランド戦略によって組織を再生させました。社員のまじめさを強みととらえ、「水道を支える責任感」や「仕事への誇り」を明文化・視覚化。コーポレートサイトやロゴの刷新を通じて、誠実さを保ちつつも変革に挑む姿勢を社内外に発信しました。その結果、社員の意識にも変化が現れ、改善提案など挑戦的な動きが活発に。
ブランドは企業文化として根づきつつあります。
出典:SEVEN DEX「「今変革を起こさなければ」創業84年、日本鋳鉄管ブランド戦略のリアル」
専門家のサポートで、より効果的なブランドパーソナリティの確立を!
ブランドパーソナリティは、顧客にブランドの個性や価値観を伝えるための重要な要素です。
単に商品やサービスを販売するだけでなく、「どうしたら顧客に共感してもらえるか」「ペルソナに響くブランドになれるか」といった点をよく考えて、社内でパーソナリティを確立させます。
自社の雰囲気や方向性に合う人材を確保し、ブランドが継続的に成長できるよう、しっかり検討しましょう。
当社は、ブランディング、マーケティング、クリエイティブに加え、財務、法務・知財、人事・労務などの領域横断チームを基にクリエイティブコンサルティング事業を展開しています。
成長を支えるパートナーとして、ブランド戦略立案から皆様の「ありたい姿」の実現をサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。