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2025/07/24

インナーブランディングとは?目的や企業の成功事例を紹介

コラム

インナーブランディングとは、企業の理念や価値観を社員に深く浸透させるための取り組みです。「インナーブランディング」という言葉は聞いたことがあっても、「目的を正しく理解できていない」「具体的にどのような施策を行えば良いのか分からない」と悩む方も少なくありません。
本記事では、インナーブランディングの基本的な定義から、企業における必要性、実施の手順、成功事例までをわかりやすく紹介します。

インナーブランディング(インターナルブランディング)とは

インナーブランディングとは、企業の内側に向けて行うブランディング活動で、従業員に企業理念やパーパス、ミッション、ビションなどを深く浸透させることを目的としています。従業員一人ひとりが企業の価値や想いを正しく理解し、共感しながら日々の業務に反映することで、ブランドの一貫性が保たれ、顧客に統一されたブランドイメージを届けることができます。
パーパス、ミッション、ビジョンについて詳しくは「企業におけるパーパスとは?重要性や効果をわかりやすく解説」をご覧ください。
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会では、インナーブランディングを以下のように定義しています。
『「Internal」は「内側の」という意味で、社員、非正規労働者(契約社員・パート・アルバイト)、臨時・常駐スタッフ、また協力会社など、企業の内側にいるあらゆる関係者に向けて行うブランディング活動のことを呼びます。』
なお、日本では「インナーブランディング」という表現が一般的ですが、「インターナルブランディング(Internal Branding)」が正式名称です。ただし、「インナー(inner)」「インターナル(internal)」どちらも「内部の」「内側の」「精神的な」という意味を持つため、実務上同義で使われています。

参考:ブランド用語集|一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会|ブランド・マネージメントの資格取得

社外向けは「エクスターナルブランディング」

ブランディング活動は、大きく分けて「インナーブランディング」と「エクスターナルブランディング」の2種類に分類されます。
エクスターナルブランディングは、企業の理念やブランドの価値、商品・サービスの魅力を、社外の顧客や市場、取引先、投資家などに向けて発信する活動です。企業理念やパーパスを明確に打ち出し、ブランドの世界観に共感してもらうことで、競合との差別化を図り、企業のファンを獲得することが主な目的です。
つまり、社内の価値観浸透を目的とする「内向き」のインナーブランディングと、社外に向けたメッセージ発信を目的とする「外向き」のエクスターナルブランディングでは、アプローチ対象が明確に異なります。
なお、ブランディングの全体像について詳しく知りたい方は「ブランディングの意味とは?企業が行う目的や効果、手順を解説」をご覧ください。

インターナルブランディングとエクスターナルブランディングを解説する図

インナーブランディングを行う目的や企業における必要性

インナーブランディングの目的は、企業理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などを社内に共有し、理解と共感を促すことです。その結果、従業員が自社に対して愛着や誇りを持ったり、エンゲージメント(企業との結びつき)を高めたりすることにもつながります。
近年、働き方や雇用形態の多様化により、従来の終身雇用や年功序列の枠組みが崩れつつあります。人材が企業を選ぶ基準も変化しており、「企業のビジョンや理念に共感できるかどうか」が重視されるようになりました。
こうした背景の中で、従業員が自社の方向性を理解し、ブランドの担い手として行動できるようにすることは、持続的成長を実現するための不可欠な要素です。
また、市場競争が激化する中で企業の価値観や世界観を明確に打ち出すことは、他社との差別化を図るうえでも極めて重要です。そのため、インナーブランディングは単なる理念の共有にとどまらず、企業全体の成長戦略にも深く関わっています。

インナーブランディングの効果・メリット

インナーブランディングは単なる情報共有にとどまらず、企業に多くの影響をもたらします。ここからは、インナーブランディングの効果やメリットを解説します。

従業員の満足度やエンゲージメントの向上

従業員が同じ価値観や目標を共有・共感できていることは、組織の意思決定や行動指針の一貫性を保つうえで重要です。従来のような表面的な情報伝達だけではなく、従業員が「なぜそれが大切なのか」といった背景まで理解し、自分ごととして納得できるプロセスを設けることで、心理的なつながりが深まり、共感やエンゲージメントが自然に育まれていきます。
インナーブランディングを通して、従業員が企業の価値観やビジョンに共感し、自分ごととして捉えられるようになると、自社への愛着が深まります。その結果「会社に貢献したい」「一緒に成長していきたい」といった前向きな気持ちが生まれやすくなり、従業員の満足度やエンゲージメントの向上にもつながります。
さらに、従業員一人ひとりがMVVを理解し、日々の業務に反映できるようになると、組織の方向性がそろい、中長期的な業績向上にも好影響をもたらします。
従業員エンゲージメントについてさらに詳しく知りたい方は「従業員エンゲージメントとは?企業での向上施策やメリットを解説」をご覧ください。

企業文化の形成・浸透

インナーブランディングは、企業文化を築き、それを社内に広く浸透させるうえで重要な役割を果たします。企業理念やMVVを従業員一人ひとりが正しく理解し、それに基づいて行動することで、組織全体に統一感や一体感を生み出します。
さらに、企業の独自性が社内に深く根付くと、社外に対しても一貫したブランドイメージを発信できるようになることがメリットです。その結果、他社との差別化が進み、競争優位性を高めることにつながります。
インナーブランディングによって、従業員の意識や行動が企業理念に沿って統一されていけば、組織全体のパフォーマンスが底上げされ、ブランド価値が強化されるという好循環を生み出します。

優秀な人材の確保・維持

インナーブランディングは、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めるために有効な取り組みです。従業員が業務に誇りや意義を見いだすことで、意欲的に業務に取り組むようになります。このような従業員は、生産性の面でも高いパフォーマンスを発揮しやすく、結果的に企業の業績アップに貢献するでしょう。
さらに、やりがいを感じながら働ける環境が整えば、離職率の低下も期待できます。近年は、より良い職場環境や働き方を求めて転職する人が増えているため、インナーブランディングを通じて自社の魅力を高め、優秀な人材の定着と、新たな人材の確保につなげていくことが重要です。

インナーブランディングの効果とメリットを解説する図

インナーブランディングの手順と成功のポイント

インナーブランディングを効果的に進めるためには、段階的に進めることと明確な方針が必要です。ここでは、具体的な手順と成功に導くためのポイントを解説します。

自社の現状を分析する

インナーブランディングを始める第一歩は、自社の現状を正しく理解し、分析することです。そのために、従業員へのアンケートやヒアリングなどを通して、従業員一人ひとりが企業ブランドをどのように捉えているか、どれほどエンゲージメントを感じているかを評価し、可視化する作業が必要です。調査結果からどこに課題があるかを整理し、インナーブランディングの目的やゴールを具体的に設定します。

企業理念やミッション・ビジョン・バリューを明確化する

次に企業理念やMVVを明確に定義します。曖昧で抽象的な表現を避け、誰もが理解できる形で言語化することが重要です。また、従業員が日常業務の中で共感し、実践できる内容であることも求められます。

MVVに基づいた事業ごと、チームごと、個人の目標を設定する

明確化させた企業理念やMVVを基盤にして、各事業部門・チーム・個人の目標設定を行います。このとき、MVVに基づいた目標を設定することがポイントです。組織全体がMVVに沿った目標を掲げることで行動指針に一貫性が生まれ、企業全体の成長に結びつきます。
また、MVVに基づいた目標を人事評価制度と連動させることで、理念と日々の業務をより強固に結びつけられます。評価基準がMVVと整合していれば、従業員は目標達成に向けて意義を感じながら取り組むことができ、組織全体としても理念の実践度が高まります。
また、目標設定は評価制度に紐づけることも欠かせません。それにより、成果や取り組みを公平に評価でき、従業員が目標達成の重要性を理解するとともに、主体的な行動を促すことにつながります。

施策を実施し社内に浸透させる

目標を達成するためには、具体的な施策を決定し、社内での浸透を図る必要があります。従業員がMVVに共感し、日々の業務に反映できるような取り組みを行い、同時に設定した目標の達成を後押しする環境を整えることが重要です。
なお、選択する施策によって準備に要する時間やコストが大きく異なります。会社の規模や文化、リソースなどを考慮し、自社に合った施策を慎重に検討すると良いでしょう。また、施策は社内の反応を見ながら、必要に応じて見直すことも大切です。

施策の効果を評価し改善につなげていく

施策を実施した後は、その結果を測定し、評価することが重要です。現状分析と同様にアンケートやインタビューなどを活用し、企業理念やMVVがどれほど浸透したか、また目標達成にどの程度寄与したかなどを明確に把握します。その後、得られたデータを分析し、改善点を見つけます。
インナーブランディングは、一度きりの取り組みではなく、中長期的に継続するべき活動です。PDCAサイクルをしっかり回し、評価と改善を繰り返すことで、さらに効果的な施策を実施できるようになります。

インナーブランディングを推進するための手法

インナーブランディングを効果的に推進するためには、多角的なアプローチが必要です。また、社内文化や従業員の価値観に合った工夫が成功のポイントとなります。ここからは、インナーブランディングを実現するための具体的な手法を解説します。

トップメッセージ

トップメッセージとは、経営者が企業理念や方針、ビジョンを従業員に向けて直接伝える施策です。このメッセージを通じて、企業の目標や方向性を従業員が深く理解し、共通の目標に向けた行動を促します。
トップメッセージにインタビューや意見交換の要素を取り入れると、従業員との直接的なコミュニケーションが生まれ、より親しみを感じられます。また、経営者の考えを直接聞く機会を提供することで、経営者への信頼感が高まるとともに、組織全体の結束力を強化する効果が期待できます。

社内報

社内報は、企業内で起きた出来事やブランドコンセプト、重要なメッセージなどを全従業員が一律に共有できることが特長です。紙媒体が主流でしたが、近年はデジタル化が進み、Web媒体を利用する企業が増えています。Web版では、動画を使用することもできるため、ビジョンやメッセージを視覚的に伝えられます。

社内SNS・コミュニケーションツール

社内SNSやコミュニケーションツールは、従業員が気軽に活用でき、注目も集めやすいため、情報共有において非常に効果的な手法です。これらのツールは、最新情報を素早く伝達できるだけではなく、社員同士の双方向のやり取りを可能にし、立場や部署を超えたコミュニケーションを促進します。その結果、従業員間のつながりが強化され、企業文化の深化を促進できることも魅力です。

社内イベント

社内イベントには、ワークショップやアンケートなどがあります。例えば、ワークショップでは、企業に関連したテーマでディスカッションやアイデア創出を行い、従業員が自社のビジョンや価値観を再認識する機会を提供します。
さらに、アンケートを実施することで、従業員が抱えている課題を把握し、組織改善につなげることが可能です。

評価・表彰制度

企業理念やMVVに沿った行動を取った従業員を讃える評価・表彰制度は、インナーブランディングを推進するうえで有効です。例えば、インセンティブ制度は、具体的な成果を公に評価することで、ほかの従業員にも前向きな刺激を与えるでしょう。また、チーム単位での表彰を行うと、連帯感の強化や目標の共有にもつながります。
表彰制度の導入が難しい場合でも、評価制度と連携させて公平かつ透明性のある評価を行うことで、インナーブランディングの推進に貢献できます。さらに、評価を通じてMVVの社内への浸透度を継続的に把握し、課題を可視化して今後の施策に反映していく取り組みを行うことも大切です。

インナーブランディングを行う際の注意点

インナーブランディングは、短期間で効果が現れる施策ではないことを理解する必要があります。中長期的な取り組みになることを前提に、施策を実施した後は、従業員の反応や成果を丁寧に確認しながら改善を重ね、少しずつ効果を高めることが大切です。
また、従業員に対して一方的に価値観を押しつける、企業理念を過剰に強調する、などのアプローチは、従業員の反発や抵抗感を招く恐れがあります。重要なのは、企業の理念や想いを丁寧に共有しつつ、従業員一人ひとりの感じ方や価値観を尊重し、双方向の対話を通じて「共感」を土台に自然と浸透させていく姿勢です。このような関係性を築くことが、インナーブランディングの成功において不可欠です。

企業のインナーブランディング成功事例

効果的なインナーブランディングによって、従業員の意識統一やエンゲージメントの向上に成功した、ユニファ株式会社の事例を紹介します。
保育施設向け総合ICTサービス「ルクミー」を展開するユニファ株式会社は、企業理念や社会貢献に対する想いが求職者に十分伝わっていないという採用活動に関する課題を抱えていました。そこで、求人サイトを活用するとともに、社内向けのインナーブランディング施策を実施しました。社内外で理念を共有することで、採用ブランディングを始めた2017年ごろは20名ほどだったのが220名にまで増加し、採用活動において大きな成果を上げました。(2020年4月時点)

出典:認知度の低い会社の採用ブランディングにこそWantedly adminを有効活用すべき / ユニファ株式会社

企業成長につながるインナーブランディングを!

インナーブランディングとは、従業員に対して企業理念やMVVを深く浸透させることを目的とした取り組みです。主な効果として、従業員のエンゲージメント向上や企業文化の形成・浸透などが挙げられます。推進にあたっては、トップメッセージや社内報、社内SNSなどが効果的です。また、段階的に施策を実施しながらPDCAサイクルを回していくことで、着実に成果を上げ、企業全体の成長へとつなげることができるでしょう。


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