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2025/06/10
企業におけるパーパスとは?重要性や効果をわかりやすく解説
コラム

パーパスとは、企業が存在する目的や社会における意義を示すものです。単なる利益追求ではなく、社会課題の解決や長期的な価値創造を目指すことで、社員のモチベーション向上やブランド価値の確立につなげることを目的としています。
本記事では、企業におけるパーパスの意味や重要性、効果について、具体例を交えながら解説します。企業の成長戦略のヒントを探している方は、ぜひご覧ください。
Contents
企業におけるパーパスの意味と派生語
パーパス(Purpose)は直訳すると「目的」や「意図」となりますが、ビジネスにおいては「企業の存在意義」や「社会的意義」を表す概念です。もう少し噛み砕いて説明すると「なぜこの企業が存在するのか」「社員はなぜ働くのか」など、本質的な目的や方針を示すものです。

ここからは、パーパスの意味に加え、そこから派生した関連ワードについて解説します。
パーパス経営 | パーパス経営とは、企業の存在意義(パーパス)を軸に経営戦略を構築し、事業活動や組織運営の基盤とする経営手法です。社員の意識統一やブランド価値の向上を重視し、パーパスを基軸とした企業活動を通じて、社会へ意味のあるインパクトを創出していきます。 |
パーパスブランディング | パーパスブランディングとは、企業の存在意義(パーパス)を軸にブランドの価値やメッセージを発信し、顧客に共感を生み出すことで、企業ブランドそのものや、自社サービス、商品価値の向上につなげる手法です。利益の追求よりも認知拡大を重要視し、ブランドの信頼性や愛着を高めることを目的としています。 |
パーパスステートメント | パーパスステートメントとは、企業が存在する目的や社会的意義を簡潔に表現した声明です。企業のビジョンや使命を従業員やステークホルダーに明確に伝え、共有することを目的として作成されます。 |
パーパスドリブン | パーパスドリブンとは、パーパスを基盤に意思決定を行い、戦略を展開するアプローチ方法です。パーパスを軸にした製品やサービスには企業のあり方や理念が反映されており、利益の追求だけでなく、社会的価値の創造を目指しています。 |
パーパスに類似する言葉との違い
パーパスと類似した言葉に「MVV」があります。これは、以下の3つの頭文字を取った略称です。
- ミッション(Mission)
- ビジョン(Vision)
- バリュー(Value)
パーパスは、「なぜ」企業が存在するのかを示す、根本的な概念です。一方、MVVは企業の具体的な方向性を示すものです。
経営理念やクレドもパーパスと近い要素を持っていることから、意味が混同されることがあります。使用する企業毎に言葉の定義を行い、正しく運用していくことが大切です。
ここからは、パーパスと類似する言葉について詳しく解説します。
ミッション:企業が果たすべき使命
ミッションとは、企業が果たすべき使命を示すものです。「企業は何のために存在するのか」という根本的な問いに答える役割を持ち、社会への貢献や提供価値を明確にすることで、企業の方向性を定める指針となります。つまり、ミッションは業務や意思決定の軸となり、それに基づいた行動が企業の価値を高めることにつながります。

ビジョン:自社が目指す未来
ビジョンとは、企業が描く理想の未来像を示すものです。ミッションが「なぜ存在するのか」という“What”の問いであるのに対し、ビジョンは「将来どうしたいのか」「どこを目指すのか」という“When”や“Where”の問いにあたります。
企業の方向性を明確にし、それに基づく活動の中で具体化されていくものです。さらに、ビジョンを従業員やステークホルダーに共有することで一体感を生み出し、企業全体の成長につながります。
バリュー:大切にしている価値観や行動基準
バリューとは、企業が大切にする価値観や行動基準を示すものです。「どのような基準で意思決定を行うか」「どのように行動するのか」という“How”の問いにあたります。

企業におけるバリューは、社会や顧客に提供する価値に限定されることが多く、企業文化や従業員の働き方にも大きな影響を与えます。
経営理念:経営者の価値観や思い
経営理念とは、経営の基本指針を示す考え方や価値観のことです。経営者の思いが反映された抽象的なもので、トップが交代すると内容が多少変化することがあります。一方、パーパスは企業の存在意義を示すものであり、経営者が変わってもその本質は変化しません。
クレド:従業員に向けての行動指針
クレドの語源はラテン語の「credo」で、「信条」「志」「約束」を意味します。企業が大切にする価値観や行動指針を明文化したものであり、企業理念やミッションを日常業務に落とし込むための指針です。つまり、パーパスは企業の存在価値を表した指針であるのに対し、クレドは従業員の行動に焦点を当て、具体的な行動指針を提供します。
パーパスが重要視されるようになった背景
近年、環境問題や格差拡大、消費者意識の変化などにより、パーパスの重要性が一層高まっています。これらの要因を正しく理解することで、企業は自らの存在意義を明確にし、社会的責任を果たす経営戦略を立てることができます。
ここからは、パーパスが重要視されるようになった背景について詳しく解説します。
VUCA時代の到来によるビジネス環境の変化
VUCA(ブーカ)時代の到来により、ビジネス環境は急激に変化しています。VUCAとは、以下の4つの要素の頭文字を取った略称です。
- Volatility:変動性
- Uncertainty:不確実性
- Complexity:複雑性
- Ambiguity:曖昧性

つまり、現代は、技術革新やグローバル化、インターネットの爆発的な普及、自然環境問題の深刻化が急速に加速し、経済の先行きが不透明な状況が続いているということです。
従来の戦略では、このような時代に対応しきれません。しかし、ビジネス環境のいかなる変化においても、企業のパーパスは常に存在しています。激動の時代だからこそ、パーパスを軸にした柔軟かつ持続可能な経営が重要視されます。
企業に求める価値観の変化
近年、企業に求められる価値観は大きく変化しており、現代では社会的責任の履行や持続可能な経営が重視されるようになりました。特に、若年層が就職先を選ぶ際には、企業文化や社会における役割や意義の表明などに注目する傾向が強まっています。そのため、企業が優秀な人材を獲得するには、共感を得られるパーパスを明確に示すことが重要です。
投資家が評価する基準の変化
近年、投資家が企業を評価する基準は、財務指標だけでなく「ESG(イーエスジー)」や「サステナビリティ」の観点を重要視する傾向に変化しています。ESGとは、次の3つの要素の頭文字を取った略称です。
- Environment:環境への配慮
- Social:社会への貢献度
- Governance:適切な統治
また、世界中で短期的な利益追求だけではなく、ステークホルダーとの関係性を良好に保つことも重要との認識に変わってきており、企業が自社のパーパスを投資家に明確に示すことは、有効な手段の一つとなっています。
パーパスの策定・見直しで得られる効果やメリット
パーパスの策定や見直しにより、企業の存在意義が明確になります。その結果、顧客や投資家からの共感や信頼を得られ、長期的な競争力が向上することがメリットです。さらに、従業員のモチベーションアップや企業文化の強化など、多くの効果が期待できます。
ここからは、パーパスの策定・見直しで得られる効果やメリットについてさらに詳しく解説します。
ステークホルダーから共感や支持を得られる
企業が社会的責任を果たし、持続可能な価値を提供できることを明確に示せば、ステークホルダー(顧客、投資家、従業員など)から信頼や支持を得ることができます。これにより、顧客はその企業のサービスや商品を選び、投資家は企業の成長性を評価します。
さらに、従業員は自社で働くことを誇りに思い、生産性が向上するでしょう。パーパスに信頼と共感を寄せるステークホルダーは、長期的に企業を支援するため、安定した成長を支える存在となります。
社員のエンゲージメントやロイヤリティの向上につながる
パーパスは、従業員が働く意義や目的を明確化し、自己の仕事が社会にどのように貢献しているのかを実感させます。これにより、エンゲージメントやロイヤリティが向上し、従業員が自発的に仕事に取り組むようになることがメリットです。
また、パーパスに共感した人材を採用することで、企業と従業員のミスマッチを防ぎ、定職率の向上につながります。

従業員のエンゲージメントについては「従業員エンゲージメントとは?企業での向上施策やメリットを解説」で詳しく解説しています。
ESG推進の貢献につながる
企業が社会的意義や社会貢献を明確に示すことで、活動内容がイメージしやすくなり、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが強化されます。その結果、投資家や顧客からの信頼を獲得し、持続可能なビジネスモデルの構築が可能です。社会貢献度は採用活動のアピールポイントにもなり、優秀な人材の獲得にも寄与します。
パーパス策定のポイントと手順
パーパス策定のポイントは、次の5つです。
- 未来志向であること
- 誰にでもわかりやすい言葉で表現されていること
- 社会課題や経営課題を解決する手助けができること
- 自社の事業内容や活動と矛盾しないこと
- 企業全体および社員の成長を促進する内容であること
ここからは、パーパス策定のポイントを踏まえ、具体的な手順について解説します。
自社を取り巻く社会的環境を調査する
まず、現代社会の課題や社会的環境を調査し、企業が解決すべき問題を明確化することが重要です。パーパスは企業の社会的存在意義を示すものであるため、ブランディングにも大きく影響を与えます。
具体的には、次のような方法でデータ収集を行うと効果的です。
- ステークホルダーに対してインタビューを実施する
- 社内で意見交換を行い、社員がどのような課題解決に貢献したいかを把握する
- 業界の動向や社会問題のトレンドをデータとして収集する
自社を取り巻く身近な課題に着目することで、ステークホルダーの共感を得やすくなります。
自社のパーパスを明確化する
ここまでの取り組みや調査結果を踏まえて、企業の社会的存在意義を精査し、自社のパーパスを言語化します。さらに、ステークホルダーと意見を交換し、共感を得られるようにブラッシュアップします。その際には、企業理念と一貫性がとれているか、企業文化やサービスに合った表現であるかを十分に議論することが大切です。
パーパスステートメントを作成する
パーパスが明確になったら、次はパーパスステートメントを作成します。その際には「自社がなぜ存在するのか(存在意義)」と「提供する価値は何か(社会貢献)」を簡潔に表現することが重要です。誰でも理解できる言葉を選び、企業の強みや価値観、社会課題への貢献を盛り込みます。パーパスステートメントは企業の方向性を示すものであるため、意見交換を重ね、慎重に策定することが求められます。
また、そのプロセスも企業の活動としてレポートにまとめ、社内外に発信することで、パーパスへの取り組みを効果的にアピールできます。さらに、同時にバリューやクレドの策定を進めることも重要です。
パーパスステートメントを実行する
パーパスステートメントを策定したら、次にそれを実行に移すことが重要です。企業全体に内容を共有し、どのように日常業務に落とし込むのかを明確にします。また、社外への発信など、実際の企業活動にも反映させます。その際には、リーダーシップ層が率先してパーパスに基づいた行動を示し、社員一丸となって実行に移せるようにサポート体制を整えることも大切です。
パーパスステートメントを評価する
パーパスステートメントは、定期的に進捗を評価することが重要です。評価方法としては、企業活動や目標が一致しているか調査したり、社員にアンケートを実施して浸透度を測定したりすることが挙げられます。
評価結果に基づいて、必要に応じて見直しや改善を行い、より効果的な方向に進むように調整します。これにより、パーパスが常に実践され続ける環境となり、社員は自分の仕事に意義を見い出し、モチベーションの向上につながるでしょう。

パーパス経営を実施している企業の取り組み事例
最後に、パーパス経営を実施している企業の取り組みを紹介します。
ソニー
ソニーグループは2019年1月に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパス(存在意義)を掲げ、さまざまな取り組みを実施しています。全世界で11万人もの社員を抱えるソニーグループは、パーパスを浸透させることを目的に専門の事務局を設立し、ポスター配布やインタビューなどを実施し、組織が一丸となって存在意義を伝えています。これらのミッションにより、内部で変化が促され、パーパスに対する共感が深まっていきます。
代表執行役 会長・CEO吉田憲一郎氏は「コロナ禍でも社員一人ひとりがパーパスに向かって行動したからこそ、2020年度は過去最高収益を達成できた。」と語り、パーパスが企業の成長に与える影響を強調しています。
引用:ソニーグループポータル | Sony’s Purpose & Values
中川政七商店
中川政七商店は、1716年に手績み手織りの麻織物で創業した300年以上の歴史を持つ老舗企業です。現在では、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、これまでのブランド構築の仕組みを産地に伝授し工芸を元気にする取り組みを始めました。日本の工芸各社が経営的に自立し、ものづくりに誇りを取り戻すことを目指しています。
中川政七商店が掲げているのはパーパスではなくビジョンですが、ビジョンに基づく事業戦略やコンサルティングにより、成長を加速させています。
envision
envisionのパーパスは「未来のためにできることをやる。」です。envisionでは「クリエイティブで社会課題に向き合いたい」という思いを抱き、2021年半ばから構想を練り始め、2022年初頭に社内プロジェクトを立ち上げました。その後半年にわたり、毎週プロジェクトメンバーが話し合いを重ね、その内容を社内で共有・討論することで、パーパスの骨組みを形成しています。
このパーパスを基盤に、社会課題をクリエイティブの力で解決するオウンド事業「PROJECT」を立ち上げ、その第一弾として食品ロス問題に焦点を当てたオウンド事業「ロスをロスするProject」を発足させました。


誰もが自分らしい食品ロス削減方法を見つけられるように。
旅するように新しい知識やアイデアとの出会いを楽しむオウンドメディア。
当社実績ページにて、詳細をご紹介していますのでぜひご覧ください。
パーパスはわかりやすく、共感を得られるものに
パーパスとは、企業の存在意義や社会的使命を示すものです。VUCA時代の到来や消費者が企業に求める価値観の変化から、近年重要性が増しています。
パーパスを策定する際には、自社を取り巻く環境の課題に注目し、誰にでも理解しやすい言葉で表現することがポイントです。本記事で紹介した手順や実際の取り組み事例をヒントに、自社のステークホルダーの共感を得られるパーパスを設定してください。
なお、パーパスの策定は企業内部で行うことが一般的ですが、外部の専門家やコンサルタントに依頼することで、さらに効果的に策定を進めることもできます。
いずれのケースでも企業がパーパスを通じて何を達成したいのか、どのような価値を提供したいのかを洗い出すことが重要です。
当社は、ブランディング、マーケティング、クリエイティブに加え、財務、法務・知財、人事・労務などの領域横断チームを基にクリエイティブコンサルティング事業を展開しています。
成長を支えるパートナーとして、パーパス策定から皆様の「ありたい姿」の実現をサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。