envisionの種
2026/09/04
ちょっと無理クラブ 〜弱音を、ポジティブにはこう。〜Vol.2(2回連載)
コラム

「ちょっと無理クラブ」は、言葉にしづらい弱音や不完全さを、かわいい表現によって少しだけ外に出しやすくできないかを考えるプロジェクトです。
弱音を無理に前向きな言葉へ変えるのではなく、そのままでは少し伝えづらい気持ちに、やわらかい形を与えてみる。
前回は、その背景にある「弱音」や「かわいい」について考えました。今回は、そこで生まれた仮説を、実際のクリエイティブにしてみます。「ちょっと無理クラブ」の、はじまりです。
◼︎Vol.1はこちら

中井英之
Art Director
メンズインナーやライフスタイルブランドのクリエイティブディレクションを経て、ブランド・地域・人のあいだに生まれる新しいコミュニケーションを探求。ビジュアル、コピー、体験設計を横断し、関係性を読み解きながら、銭湯を起点にまちの資源を捉え直す「風呂式」プロジェクトを推進している。よく歩き、よく浸かり、よく考える。

三好 真央
Designer
香川県出身。水瓶座。デザイン専門学校を卒業後、Web媒体を中心にデザイン制作を経験。より広い視野で、さまざまな媒体を通して誰かの心に寄り添うクリエイティブを目指したく、envisionへ入社。クライアントやユーザーが求めるものに、プラスアルファの価値を添えた提案をしたいと思っている。日常ではとにかく自分がときめく“かわいい”ものを集めるかわいいコレクター。自分自身も誰かの心がときめくデザインを届けていきたい。
ここまでの振り返り
Vol.1では、そもそも「弱音」とは何なのか、というところから考えました。疲れている。気持ちが追いつかない。返事ができない。何も出てこない。でも、それをそのまま「つらい」「助けて」と言うほどではない。私たちの日常には、そんな言葉になる前の弱音がたくさんあります。
はっきり説明できるほど整理されていないけれど、たしかに自分の中にあるもの。言葉にすると少し重くなりすぎるし、黙っていると少しずつ溜まっていくものです。
そして弱音は、必ずしも個人の強さや弱さだけの問題ではありません。何を「弱音」と感じるかは、時代や価値観、人との関係によっても変わります。だからこそ、「弱音をなくす」のではなく、弱音を出しやすく、受け取りやすくする形をつくることも、ひとつのコミュニケーションデザインなのではないか。そこで手がかりにしたのが、「かわいい」という表現でした。
完璧ではないもの。少し不器用なもの。ちゃんとしていないけれど、どこか憎めないもの。
そんな「かわいい」が間に入ることで、そのままでは出しづらい弱音を、少しだけ人に渡しやすくできるかもしれない。
弱音を隠すためではなく、弱音を出しやすくするために「かわいい」を使う。それが、Vol.1でたどり着いたデザインの仮説でした。今回は、その仮説を実際に形にしてみます。
「ちょっと無理クラブ」を形にしてみる

今回、envisionのかわいい担当デザイナー三好と一緒に「ちょっと無理クラブ」の世界観を考え、キービジュアルとキャラクターを制作しました。目指したのは、社会課題をそのまま説明するようなビジュアルではありません。まず見たときに、
「かわいい」
「なんかわかる」
「ちょっと笑える」
と思えること。そして、そのあとに少しだけ、「これ、自分にもあるかも」と感じてもらえること。企画当初から大切にしてきたのは、“軽いのに、ちゃんと残る”表現です。
弱音を深刻に見せすぎない。でも、ただのネタにもしてしまわない。その間にある温度を、キャラクターや色、言葉、グラフィックでつくっていきました。
「ちょっと無理」な状態を、キャラクターにする
キャラクターのモチーフにしたのは、日常にあるちょっと不備のあるモノです。
電池がほとんど残っていない。使い切って、もう何も出てこない。やろうと思っているうちに、どんどん溜まってしまう。どれも人間ではありません。でも、その状態を見ていると、なぜか「今の自分みたい」と思えてくる。キャラクターは、憧れの存在ではなく、そんな「わかる」「自分みたい」と感じられる存在として考えています。完璧でキラキラしているのではなく、どこか欠けていたり、少し困っていたりする。でも、見ているとなんとなく安心する。
現在、「ちょっと無理クラブ」には10体のキャラクターがいます。KVにはその10体すべてが登場していますが、今回はその中から、これからSNSなどを中心に展開していく3体を紹介します。ほかのキャラクターも、今後SNSで少しずつ紹介していく予定です。
空っぽ歯磨き粉さん

絞っている。ちゃんと絞っている。。でも、…もう出ません。「まだ何かできるかも」と思っていても、自分の中にはもうほとんど残っていない。そんな日があります。企画初期から考えていた言葉は、
「もう何もでません」
無理やりひねり出すより、「今日はもう空っぽです」と言えてしまったほうが、少しだけ楽かもしれない。空っぽ歯磨き粉さんは、そんな状態を代わりに見せてくれるキャラクターです。
充電3%ちゃん

0%ではない。だから、まだ動ける。でも決して元気でもない。あと少しならいけそうな気もするけれど、いつ電源が落ちてもおかしくない。そんな絶妙な状態が、充電3%。企画初期につけた言葉は、
「カウントダウン入ってます」
できる or できないの二択ではなく、今の自分にどれくらい余力が残っているか。今日は100%じゃない。50%でもない。3%くらいかもしれない。それをちょっと笑いながら伝えられるだけでも、コミュニケーションは変わるかもしれません。
たまりすぎ洗濯物さん

やらなきゃ、とは思っている。。ひとつ後回しにしているうちに、もうひとつ増える。。。気づけば、見るだけで少し疲れるくらい積み重なっている!洗濯物だけではなく、仕事だったり、返信だったり、考えごとだったり。。
日常には、そんなふうに少しずつ「やらなきゃ」が溜まっていくことがあります。全部きれいに片づけられない日があってもいい。とりあえず今は、たまっている。その状態そのものをキャラクターにしたのが、たまりすぎ洗濯物さんです。
「かわいい」は、弱音をごまかすためではない
こうして「ちょっと無理」な状態をキャラクターにすると、少しだけ笑えたり、「わかる」と思えたりします。でも、私たちがやりたいのは、しんどさを笑い飛ばすことではありません。弱音を「大丈夫」に言い換えることでも、無理やり前向きにすることでもありません。自分の状態をそのまま説明しようとすると、ときどき言葉が強くなりすぎます。
「しんどいです」と言うほどでもない。でも、「大丈夫です」でもない。その間には、本当はたくさんの状態があります。そんなとき、キャラクターがひとつ間に入る。
「今日の自分、充電3%ちゃんかも」
それくらいの言い方なら、自分の状態を少し外に出しやすくなるかもしれません。受け取る側も、「わかる」「今日はそういう日なんだな」くらいの距離で受け止められるかもしれない。
「かわいい」は、弱音を薄めるための装飾ではなく、弱音を言う人と受け取る人の間に置く、小さなクッションになれるのではないか。今回のクリエイティブは、そんな仮説を実際に形にしてみる試みでもあります。
ちょっと無理クラブは、ここから育てていく
今回つくったキービジュアルやキャラクターは、完成形ではありません。むしろ、ここからが「ちょっと無理クラブ」のスタートです。これからSNSでキャラクターや「ちょっと無理」な気持ちを発信しながら、実際の反応を見ていきます。
どのキャラクターに「わかる」が集まるのか。どんな言葉なら、自分の気持ちとして使いたくなるのか。フィード、ストーリー、動画など、どんな形ならこの世界観を楽しんでもらえるのか。まずは外に出しながら、少しずつ探っていきます。
そして、SNSだけでは伝えきれない「ちょっと無理クラブ」の考え方やキャラクターをまとめる場所として、Webサイトも制作していく予定です。
さらにその先では、「このキャラクターが好き」「自分も参加してみたい」「グッズとして欲しい」「こんな“ちょっと無理”もある」といった声も取り込みながら、参加型の企画やグッズなどへの展開も考えていきます。
9月に発信を始め、10月には発信の型とWebの受け皿をつくる。そこから反応のよいキャラクターや表現を見つけ、「見る」だけではなく「参加したい」「欲しい」と思ってもらえるところまで試していく。
最初から正解を決めるのではなく、出して、反応を見て、育てる。
そんな進め方で、「ちょっと無理クラブ」自体も少しずつ形を変えていきたいと思っています。
弱音を、ポジティブにはこう。
弱音は、なくならなくてもいい。ちゃんと説明できなくてもいい。すぐに解決しなくてもいい。
ただ、
「今日はこんな感じです」
と言える形が、もう少し身近にあってもいい。空っぽだったり。充電が3%だったり。洗濯物がたまりすぎていたり。そんなちょっと不完全なキャラクターたちと一緒に、弱音を言ってもいい空気をつくっていく。それが、私たちの考える「ちょっと無理クラブ」です。
弱音を、ポジティブにはこう。
今日はちょっと無理な人も、そうでもない人も。よかったら、これからゆるくお付き合いください。
◼︎Vol.1はこちら