INSIGHTS
2025/02/04
Critical Creative 〜予定調和なクリエイティブの壁を超えていくために〜【後篇】
対談記事

エンビジョンにご縁のあるゲストをお迎えし、これからの「Critical Creative〜常識を疑う変革思考クリエイティブ〜」のヒントを探る対談企画。前篇に続き、雑誌「宣伝会議」の誌面からこぼれ落ちてしまったトークを蔵出しでお届けします。ブランディングの研究者・実践者にして、愛知東邦大学教授の上條憲二様。そして世界視野でサントリーというブランドの人格確立をめざす宮城愛彦様。両氏に図らずも一致していたのは、「文化という土台を作った上で、所属メンバーに自由演技をしてもらう大切さ」でした。ルールやセオリーで管理されたブランディングの、ある種の限界を知った今、お二人の目に映る未来のクリエイティブはどんなものでしょうか。
◼︎前篇はこちら

上條憲二様
愛知東邦大学経営学部教授、日本ブランド経営学会会長
第一広告社(現I&SBBDO)にて、さまざまな企業の広告コミュニケーション戦略の立案、ディレクションに従事した後、インターブランドジャパンにて10年にわたってエグゼクティブディレクターを務める。2014年より愛知東邦大学に就任。同校のブランディング施策を牽引する。

宮城愛彦様
サントリーホールディングス株式会社 デザインセンター部長・シニアクリエイティブディレクター
包装材メーカーのレンゴーでパッケージデザインに従事した後、インターブランドジャパンに入社。約10年にわたって商品ブランディングからコーポレートブランドディングまで手がける。2022年にサントリーホールディングスに入社。世界を視野にサントリーブランドの価値拡大に取り組んでいる。

藤巻功
エンビジョンCOO兼CBO
事業成長を加速させ、人を動かす「クリエイティブのチカラ」を信じているブランディングの専門家。国内大手広告代理店等を経て、インターブランドジャパンにて戦略ディレクターとして、グローバルを含む多様な業界の大規模プロジェクトを多数リード。その後、楽天グループ、KPMGコンサルティングを経て、envisionでは、社会課題を解決するWoWなブランド・クリエイティブ開発、ブランディングの民主化に邁進する。
Contents
これから求められるのは、「走りながら考える」クリエイティブの力。
藤巻
私たちエンビジョンもまた、現在地のリアリティと理想のはざまで、複眼的に考える視座を持たないといけないと思っています。コーポレートのブランディングから始めることもあれば、プロダクトから着手することもあるだろうし、論理的・分析的思考も大事な一方で、「こんなものがあったら面白い!」というひらめきも必要ですよね。
宮城
最近、クリエイティブワークってイニシャルワークなのかランニングワークなのか?っていうことをよく考えています。クリエイティブは長らくイニシャルワークに位置付けられていて、商品やブランドがローンチする前までの仕事とされています。でもクリエイティブの本質はランニングワークなんじゃないかと思うんですよ。発売がゴールではなく、発売後も並走しながらアップデートを繰り返していく。とはいえ、これまでは時間・コスト含めた物理的な制約があるので実現できていない面もありましたが、AIの進化などテクノロジーの力でそこを突破できれば、走りながら考え、作り直したりアップデートしていくランニング的クリエイティブをやれる時代になっていくんじゃないかな。完成がないっていうかね。

藤巻
システム開発でいうアジャイル的な作り方ですね。ただ、一旦ローンチするなら、ある程度以上のクオリティでなくてはっていうクリエイターのこだわりもあり、そこはジレンマですよね。
宮城
よく「スピードとクオリティのどっちを取るか?」という質問があると思うのですが、どちらを取るかではなく「両方大事」です。そう考えると、これからはデザイナーに求められる資質も変わるでしょうね。クライアントやお客様と対話しながら成果物にフィードバックし改良を続けていくとなると、まずデザイナー自身に話せる力が必要になると思います。
藤巻
まだ私が入る前のことですが、エンビジョンのアートワークも、一つのビジュアルに固定するのではなく、モーショングラフィックを選んでいます。動き続けるクリエイティブという考えには親和性が高いと思います。
ブランディングをもっと社会のコモンズ(共有資産)に。
藤巻
デジタルのインフラが整って「クリエイティブの民主化」の下地はできてきたと言えますが、その一方で、クリエイティブに接点を持たず、ブランディングの本当の恩恵を理解していない大多数の人と、我々はどのように協働していけばいいと思いますか?
上條
そのヒントになるようにと2022年に書いた本が「超実践!ブランドマネジメント入門」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。愛知東邦大学で実践したことを背景に、超基本的なところから上級者向けの内容まで網羅しています。うちの大学は「オンリーワンを、一人に、ひとつ。」というブランドコンセプトフレーズを軸に、できるだけみんなで考えることを重視したおかげで、みんなの腑に落ちるものができたし、コストも比較的コンパクトで済みました。ですから、たとえ企業規模が小さくてブランディングに予算がかけられないとか、社内のリテラシーが追いついてないとしても、思いがあるなら、それをアウトプットするだけで、ブランディングの50%には到達してると思うんです。国内企業の99%はそういう中小企業なわけですし、まずは社員の人たちが「うちの会社って楽しい」と思えるように、みんなで価値を作っていってほしい。そういう誠実さってちゃんと伝わるんじゃないかな。
◼︎上條憲二(2022)「超実践!ブランドマネジメント入門」ディスカヴァー・トゥエンティワン
https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-2826-2
藤巻
上條さんが理事長になって日本ブランド経営学会という学会も立ち上げられてますよね。
上條
はい、査読は不要で出入りも自由という「学会らしくない学会」なんですが、これまでにオンラインサロンを70回近くやって、すでに300人が登壇しています。ビジネスパーソンだけでなく中高校生やシニア、海外の方、どなたでも参加OKで、不登校の高校生がスピーチしたくれたこともあります。
「◯◯マーケティング」っていうと、なにやらビジネス的でお金儲けの匂いしかしないけど、ブランディングっていうと少し違うでしょう。なにが正解かわからないけど解決策がありそうだし、面白そうって思ってもらえる。PTAブラディングとか不登校ブランディングとか、なんでも可能だと思うんです。そんなふうに頭を切り替えるだけで、新しい発想も出てくると思います。
◼︎日本ブランド経営学会
https://jbms.or.jp/

ブランディングとクリエイティブの民主化の時代にこそ試される、
プロフェッショナルの価値。
藤巻
エンビジョンはこれから、クライアントのビジネス支援と並行して、「一見、個人の課題に見えるけれど、俯瞰したらそれは社会の課題である」というイシューを拾い集めて発信していきたいと思っています。みなさんの今後の展望についてもお聞かせいただけますか。
宮城
あと3年もすれば、デザイナーの肩書きを持たない人もデザインをする時代が来るのではと思います。デザイナーが専門職として守られていた時代が終わってゆく中で、私たちデザイナーは仕事とどう向き合い、社会にどう貢献するのか。それはある種、試練であると同時に面白いことでもあるでしょうね。
上條
私は「ブランディングのリブランディング」っていうのが、これからのテーマかな。たとえば、ひとりの社員が「そのブランディングは違うんじゃない?」と思ったら自由に発言できる空気を作りたいんです。それは従来のコンサルや代理店には欠けていた姿勢じゃないでしょうか。
最近の研究では、ブランド理念が腹落ちして共感度が高い人ほど、ストレス値が低いという結果が出ています。ブランド理念への共感は働く人の健康にもいい影響があるんです。ですから「ブランディングのリブランディング」を通して、そういう幸せな働き方や暮らし方に貢献できればと思いますね。
宮城
僕は、クリエイティブはもっとライブキッチンで作られた方がいいと思ってます。料理だって作られる過程を見ながら味わうのが一番おいしいですよね、ですから僕なりにクリエイティブを社会に開くような実験を続けていきたいと思っていますし、そこで皆さんと協業できることがあれば嬉しいです。

最適化されたコモディティ的な「正解」では、壁を突破できないこの時代。さまざまなステークホルダーと対話を重ね、プレイヤーたちの想定外な「自由演技」を受け入れて、まるで生きもののように動き続けるクリエイティブにこそ、変革につながる鍵が潜んでいるのかもしれません。
対談のおまけ〜新人社員からお二人への質問!〜
対談終了後の席上で、エンビジョンの新人社員から飛び出したのが、「お二人が若手時代に学んだこと、教えてください!」という質問。さてお二人はどう答えたのでしょう?
上條
人と違うことをやろうってずっと思ってましたね。だから皆さんも自分のプラス面を1個見つけて、それを磨けばいいんじゃないでしょうか。マイナス面はほっといてもいいんです。どうせ欠点なんて治らないんだから(笑)。
宮城
キャリアって、自分が描いた青写真どおりには進まないものですけど、僕の場合、そこで得た「視点のズレ」が役に立ちました。大学ではプロダクトデザインのスキルを学んだのに、その業界に入ることは叶わず、パッケージデザインの道に進んだわけですが、パッケージをやっていくうちにブランディングの視点を学ぶことができた。そして今、サントリーに入って、ブランディング視点でプロダクトを作ったり、コーポレートのことを考えたりしているので、何一つ無駄ではなかったなと思います。だから皆さんも目の前にある課題に真摯に取り組みながら、自分のユニークさを磨いていってほしいです。