INSIGHTS
2026/04/17
越境しながら進化する、プロデューサー/クリエイターのまなざし。【前篇】
対談記事
エンビジョンの第46期突入を目前にした2026年1月末、全社を挙げたキックオフミーティングが開かれました。そのメインイベントとして企画されたのが、クリエイティブディレクター/コピーライター/プロデューサーとして活躍中の荒木拓也さんのレクチャー&対談です。広告制作会社を経て、事業会社に活動の軸足を移し、戦略立案やブランディングの可能性をさらに広げている荒木さん。前篇は「クリエイティブ記号論」というタイトルで行われた荒木さんレクチャーの模様をダイジェストで、そして後篇ではエンビジョンCOO兼CBO藤巻との対談をお届けします。
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荒木拓也様
株式会社水星 プロデュース事業部
2012年、株式会社サン・アド入社。伊藤忠商事、NISSUI、ハーゲンダッツ、NTTドコモ等の広告・ブランド戦略に携わりながら、営業とクリエイティブ職を横断するワークスタイルを確立。2021年よりクリエイティブアソシエーション CEKAIに参画。2024年からはユニークなホテルプロデュースやエリア開発を行う株式会社水星に入社し、クリエイティブと事業開発という二軸を行き来しながら「百姓的クリエイター」の生き方を模索している。

藤巻功
エンビジョンCOO兼CBO
事業成長を加速させ、人を動かす「クリエイティブのチカラ」を信じているブランディングの専門家。国内大手広告代理店等を経て、インターブランドジャパンにて戦略ディレクターとして、グローバルを含む多様な業界の大規模プロジェクトを多数リード。その後、楽天グループ、KPMGコンサルティングにてブランディング/マーケティング&クリエイティブを統括。envisionでは、社会課題を解決するWoWなブランド・クリエイティブ開発、ブランディングの民主化に邁進する。
越境者的まなざしで語られる「クリエイティブ記号論」
「エンビジョンが新たに第46期を迎えるにあたり、改めてスタッフみんなの心を一つにし、成長と変革へ向け無邪気に着実に前に進んでいこう」。そんな思いで企画されたキックオフミーティング。荒木さんをお迎えしたレクチャー&対談は、午前中のプログラムですっかりあたたまった空気の中で始まりました。広告コミュニケーションやクリエイティブの第一線で活躍してきた敏腕クリエイターの語りに、スタッフ一同、興味津々で耳を傾けます。
荒木さん
「僕は、2012年にサン・アドに入社した当時は営業職からのスタートだったんです。それが途中からプランナーやクリエイティブディレクターという役割も担うようになりました。ホテルプロデュースやエリア開発を行う水星に移った今では、クリエイティブを主軸にしつつ、事業プロデュースにも取り組んでいて、“百姓的クリエイター”を自認しています。百姓というのは“100の仕事をする人”だと言われていますよね。実は僕の実家は兼業農家で、昔はそれがコンプレックスだったんですが、最近ではむしろ、越境していろんなことをやれるのが今の時代らしくて面白いと思っています」

荒木さん
「自分たちの仕事は、プロジェクトの“問い”と“答え”を作ることだと思っています。起点となる“問い(課題設定)”をつくるのはどちらかというと営業やプロデューサーの仕事で、その問いに対して面白くて飛距離のある“答え”を作るのはクリエイターの仕事と言えます。でも時にはお互いの領域を越境する動きが起きてこそ、プロジェクトは一層面白くなると思うんです。そこで今日は、僕が普段から大切にしている視点を、7つの記号で整理してお話ししますね」
一つの案件のスタート(オリエン)からゴール(請求)まで。プロデューサー視点とクリエイター視点を混在させながら完走するための「クリエイティブ記号論」の始まりです。

クライアントの問いを再定義し、未来を示すコンセプト策定へ
最初に登場するのは「?」。質の高い課題設定を行うために欠かせない、最初のコミュニケーション「オリエンテーション(以下オリエン)」についてです。
荒木さん
「オリエンはクライアントの”問い”を知り、“答え”を考え始めるのに欠かせない大事なステップですが、クライアントの課題設定が常に正しいとは限らないと思っています。そこで重要なのが”問い”を再定義することで、僕は【基本質問・素人質問・そもそも質問】という3種の質問でオリエンを創造的な場にするよう心がけています。“素人質問”は、多少バカだと思われてもいいから、“素人質問で恐縮ですが……”と切り込んで本質を炙り出すもの。“そもそも質問”は、問いの視野を広げて課題設定の精度を上げるためのものです」
たとえば、とある老舗旅館の事例では、最初の依頼内容は“結果につながるブランディングをしたい”というものだったとか。ただそれではゴールが曖昧だと考えた荒木さんは、さらなる問いかけを重ね、課題設定の解像度を「宿泊予約プラットフォームを挟まない直接予約比率を、23%から40%に引き上げるブランディング施策をしたい」というレベルまで高めた上で策を練り、結果を出しました。
そして続くふたつめの記号は、一本の矢印「→」。解像度の高い課題設定に基づく、コンセプトの策定をあらわしています。
荒木さん
「いいコンセプトは、“常識から新常識へ、過去から未来へ”の矢印が明確なんですよね。ここは“AではなくB”で捉えると、考えやすく伝わりやすいと思います。たとえばAKB48は、“憧れのアイドル”ではなく、“会いにいけるアイドル”というコンセプトでヒットしましたし、任天堂のwiiは“子供が遊ぶゲーム”ではなく、“家族で遊べるゲーム”として、新しい使用シーンを創造しました」
ここで紹介されたのは、荒木さんがブランディングを手がけたスカルプケア製品のブランドです。コンセプトは、「地肌投資」。「悩み解決のためのスカルプケア」から「未来のためのスカルプケア」へと価値を再定義することで、ターゲット像を女性にも広げ、多種多様な製品の中で頭ひとつ抜けた存在になることを目指しました。

荒木さん
「日常生活でも、常に矢印を持って考えるようにしています。たとえば2020年にリニューアルしたローソンのPBブランドパッケージが、“商品が判別しづらい”とさまざまな意見が出たことがありましたね。あの時僕は、“店頭で目立つPB”ではなく、“家に馴染むPB”を目指したのではないかと推察して、それを当時のTwitterで呟いてみたところ、非常に多くの“いいね”やリツイートをいただきました。こういうのって自分の思考が一般の方からどれぐらい反応を得られるのかを測る指標になるので、僕にとってのSNS活用法の一つです。今は社内slackで同様のことをやっていて、社会で起きている事象について自分なりに言語化したものをどんどんアップして、みんなの反応を見る、ということを繰り返しています。そうやって自分の言語化スキルを高めている感じですね」
また、持ち込まれる相談の中には、「AではなくB」という矢印理論では解決できないケースもあります。現在、水星が手がける、ホテルプロデュースや地域開発といった中長期型ビジネスがまさにそう。ここで荒木さんが掲げるのは「〒」の記号です。
荒木さん
「郵便番号レベルの解像度でテロワール、つまりその土地らしさを考えるということです。土地や歴史に根差したコンセプトは劣化しづらいのが魅力ですよね。ただし、“大阪といえばコテコテ”というような粒度の粗い “らしさ”ではダメで、何かとの比較を通して“らしさ”を見つけることが大事だと思っています。たとえば、石川県小松市の古民家宿Komadoをプロデュースした際には、“アートシティ金沢”に対して、“クリエイションシティ小松”というコンセプトを掲げました。

荒木さん
「そもそも、金沢という一大観光地が隣にある中で、小松の魅力に気づいている人はまだまだ少ないですよね。僕たちはそのことを初回プレゼンでお伝えして、“金沢もいいけど、これからは小松っすよ!”と噂されるようなまちを目指そうと提案しました。いわば広島に対する尾道、京都に対する丹後、のような立ち位置です。そして実は、金沢の工芸に欠かせない九谷焼の絵付けや陶土の採掘などの多くは小松で行われているんです。ですから金沢の工芸をある程度知った人が、より深掘りをしに行く場所が小松である、と位置付けて発信を行なっています」
異質なものの掛け算から生まれたパワーを、!と♡で世の中に届ける
次に登場するのは、掛け算の「×」。異質なものの組み合わせにこそパワーが宿るという考えは、荒木さんのあらゆる仕事に通底しています。それは俳句の世界で、言葉と言葉の接続が紋切り型で詩的さに欠けることを、「つきすぎ」と呼んで避けるのと同じ感覚なのだとか。
荒木さん
「普通なら一緒に並ばないはずの言葉が組み合わさることで生まれる強さ。それはコピーを書く時もコンセプトを考える時も意識しています。僕は普段からそういったヒット事例の言葉を収集しているんですが、たとえば大ヒットした“うんこドリル”なんて、すごい爆発力がありますよね。水星が手がけたプロジェクトでいうと、“詩のホテル”もそうですね。これは“ホテルはライフスタイルを試着する場所”という独自の考えから生まれたもので、ホテルと詩という一見関係なさそうなものを組み合わせて、普段なかなか接点を持ち得ない“詩”に接続されるという特別な宿泊体験を提案しています」

「また、サン・アド時代の事例で言うと、NTTドコモから“歩きスマホ対策の啓発プロジェクトを立ち上げたい”とのご相談を受けて、“東京歩きスマホコレクション”なるファッションショーを企画し、渋谷の路上で実践したこともありました」

「異質なものの掛け算」は、企画やコピーライティングのみならず、人材の起用にも及びます。荒木さんにとって、その原体験となったのが、20代のときにプロジェクトメンバーの一員として関わった「伊藤忠商事×是枝裕和(映画監督)」の掛け算から生まれたドキュメンタリー広告シリーズでした。荒木さんが籍を置く水星もまた同様で、東洋的感性を持つ金沢市内のホテル「香林居」のイメージビジュアルに、イギリス人アーティストのイラストを採用するなど、意外性のある組み合わせから、唯一無二の世界をつくり出しています。
荒木さん
「これは元電通の高畑幸多さんがおっしゃっていたのですが、いい企画って驚き(!)だけではダメで、そこに必ず人の心を動かす感動、つまりいいね(♡)がないと成立しないんですよね。その!と♡のバランスをつなぐのが、ブランドストーリーやステートメントだと考えています」
そして最後に登場するのが「¥」。荒木さんはかつてサン・アドの先輩から「見積もりが一番クリエイティブなんだ」と言われたことを今でもよく覚えているそうです。
荒木さん
「当時は見積もりなんか嫌だ、つくりたくないって思っていたんですけど、今では先輩の言う通りだったなと思っています。要は、コストと見なされるような見積もりを出すのか、投資と捉えていただける見積もりを出すのかで、大きく差がつくということです。コストだと思われれば値切られますが、投資と思っていただければそうはならない。そこは本来プロデューサーが担うところではありますが、クリエイター側も責任の一端はしっかり負うべきだと思っています。忘れられないのは、何年か前に、日本を代表する大御所の写真家の方に撮影を依頼した時のことです。僕はギャラ交渉をする立場でしたが、その時かなりハッパをかけられたんですね。いわく、今後、日本で質の高いクリエイティブが生まれるかどうかは、クリエイターに正当なギャラが支払われるかにかかっていると。あれ以来、安売りをせずに健全なクリエイターエコノミーを守っていくことも、自分たちの大事な仕事なんだと思えるようになりました」
もちろん理想どおりに行くことばかりではないんですが、とやわらかく笑いながらも、まっすぐ前向きな言葉でレクチャーを締めくくった荒木さん。数々の現場で揉まれながら吸収してきた気づき・学びを惜しげなく詰め込んだ「クリエイティブ記号論」に、スタッフ一同から大きな拍手が湧き起こりました。
続く後篇では、エンビジョンCOO/CBOの藤巻功が聞き手を務めた対談の模様をお届けします。スタッフからも様々な質問が飛び出したトークの様子、ぜひご覧ください。
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