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2026/04/17

越境しながら進化する、プロデューサー/クリエイターのまなざし。【後篇】

対談記事

ビジネスにまつわる「ヒト・モノ・カネ」を動かすプロデューサー視点と、人の心を動かす表現に知恵を絞るクリエイター視点を行き来しながら、自らの可能性を開拓してきた荒木拓也さん。荒木流「クリエイティブ記号論」のレクチャーをダイジェストでご紹介した前篇に続き、後篇はエンビジョンメンバーとの対談をお届けします。

◼︎前篇はこちら

荒木拓也様 
株式会社水星 プロデュース事業部

2012年、株式会社サン・アド入社。伊藤忠商事、NISSUI、ハーゲンダッツ、NTTドコモ等の広告・ブランド戦略に携わりながら、営業とクリエイティブ職を横断するワークスタイルを確立。2021年よりクリエイティブアソシエーション CEKAIに参画。2024年からはユニークなホテルプロデュースやエリア開発を行う株式会社水星に入社し、クリエイティブと事業開発という二軸を行き来しながら「百姓的クリエイター」の生き方を模索している。

藤巻功
エンビジョンCOO兼CBO

事業成長を加速させ、人を動かす「クリエイティブのチカラ」を信じているブランディングの専門家。国内大手広告代理店等を経て、インターブランドジャパンにて戦略ディレクターとして、グローバルを含む多様な業界の大規模プロジェクトを多数リード。その後、楽天グループ、KPMGコンサルティングにてブランディング/マーケティング&クリエイティブを統括。envisionでは、社会課題を解決するWoWなブランド・クリエイティブ開発、ブランディングの民主化に邁進する。

「営業」という領域を超え、クリエイティブの戦力として認められるまで

藤巻
先ほどは素晴らしいお話(詳しい内容は前篇へ)をありがとうございました。私もかつてサン・アドさんとお仕事をさせていただいたことがあり、特にグラフィック領域を中心に優秀なクリエイターさんがたくさんいらっしゃるな、という印象を持っていました。お話の中で、営業職からキャリアをスタートされ、次第にコピーライティングやディレクションも手がけるようになって、クライアントの課題の上流にまで関わるようになっていったエピソードが出てきましたね。キャリアの転換や発想拡張のきっかけはどういうところにあったんでしょうか?

荒木さん
もともと学生時代から広告クリエイティブに興味はあって、ずっとやりたいと思っていたんですが、転機をひとつ挙げるとしたら、入社1〜2年の頃に経験した、京都の玉乃光酒造の案件がそうかもしれません。屋久杉の香りを閉じ込めた米焼酎を作られていたのですが、認知度も売上も上がっていないというのが課題でした。営業担当の方からご相談を受けたのですが、お酒としては美味しいので、「なぜ京都の酒造が屋久杉なのか?なぜこのパッケージなのか?」といったクライアント側の意図がクリアになれば改善の方向性が見えてくると感じたんですね。社内のデザイナーやコピーライターとも連携しながら、何度も質問を重ねていくことで、ようやく「強いて言えば肉に合う」という情報を引き出すことができました。結果、それで1点突破しようと決めて、ネーミングを「29(にく)」にし、ラベルも肉をイラスト化したものにしました。さらに「肉に合う」という特徴を、当時まだ出始めたばかりのAIで分析してもらったところ、それがネタになって日経BPの一面に取り上げられたんです。あの時の経験によって、クライアントとクリエイター間の単なる連絡係にとどまらず、もう一歩踏み込んで自分の中で仮説を持つことが大事なんだと思うようになりました。

藤巻
先ほどの講演の中で、「“百姓的クリエイター”を自認しています。百姓というのは“100の仕事をする人”だと言われていますよね。」という言葉が強く印象に残っています。「百姓(ひゃくしょう)」の本来の意味は、単なる「農民」ではなく、「百(たくさん)の姓(姓・かばね=職能・苗字)を持つ人」であるとされていますよね。

「百の名字(姓)を持つ人」つまり「多くの異なる職能・役割を持った人々」であり、農業だけでなく、林業、漁業、狩猟、職人、商売など、生活に必要な多種多様な生業(百姓)を営む多才な人々のことなんですよね。現代の定義とは異なりますが… “百姓的クリエイター”というのはある種、偶発的で、きっかけは先輩からのフィードバックからだったのですね。そして、そこから自分なりに本質的な課題や解決しないといけないテーマを仮説思考で深掘りして、フィールド調査もされるようになったわけですね。

荒木さん
はい。それ以降は、自分から社外のクリエイターに声をかけて一緒に仕事をする経験も積みました。すると、それまで井の中の蛙だったのが、視野が広がって自分にオーナーシップが生まれ、仕事が面白くなったんです。オーナーシップを持つというのは、要するに案件の課題を自分が一番理解しているということですよね。

藤巻
それは非常に大きな視座の変化ですね。制作会社の社内クリエイターを起用せずに、外部人材を起用することへの反発はなかったのでしょうか?そこからどのようにクリエイティブ側に軸足が移っていったのですか?

荒木さん
そうですね。大きかったのは20代の終わりに、某大手企業の7社競合コンペに参加した時のことです。途中まで進行していた企画で勝ち切れるか自信が持てず、社内クリエイティブチームの案に加えて自分で作った企画も提案したんです。結果的にそれでプレゼンに勝てたので、プロデューサー兼プランナー兼クリエイティブディレクターとして既成事実が作れたという感じでしょうか。あれがプロデュースからクリエイティブまで責任を持つという初めての体験で、自分に力がついた一つのきっかけでした。

藤巻
とんでもない逆境の中で、なんとかいい案を出して勝ちたいという気持ちが、これまでにないアプローチやチーム編成という既成事実を作ったんですね。

荒木さん
ただそこに至るまでにも段階がありました。もともとサン・アドでは企画書はクリエイティブディレクターが主体となって準備し、デザイナーが仕上げるというのが定番でした。つまり、営業の僕が関与する領域は正直なところ限定的だったんです。そこで、企画書のブラッシュアップを自分でやるよう心がけ始めたところ、企画書内のロジックのズレや不足も見えてくるようになったんですよね。そこで自分なりに情報整理して1シート足すようなことをやり始めたら、PR提案とかデジタルコンテンツ提案などのページ作成を、パーツで頼まれることが増えました。そんなことが重なって、次第に本流のCM案を出させてもらえるようになったり、プレゼンを任されるようになったという流れですね。

藤巻
自分の持ち場を一歩踏み出すには勇気や突破力だけではダメで、そこを荒木さんはできることから着実に一つひとつ広げていかれたんですね。

先ほどのお話でも、「お互いの領域を越境する」ことの大切さを語っておられましたが、とても共感できます。わざわざ自分の守備範囲を限定し制約する必要はないと思いますね、私も。もちろん責任の範囲というものは大事なのですが、「問いのデザイン=どんな問いを投げかけられるか」が肝と思います。 目に見える(狭義の)デザインの前に、その前にある最も大切な(広義の)デザイン=問い、コンセプトメイクまでの統合的な構想と設計が、クライアントへの付加価値につながっていくことを再認識しました。

エンビジョンのサイトで連載中のコラム「エンビジョンのたね」

自分に嘘をつかず、相手に媚びず、右脳と左脳を行き来しながら

エンビジョンスタッフ
自分以外は周り全員外部スタッフというチーム体制でお仕事をする場合に、意識されていることはありますか?

荒木さん
まずアサイン段階で「なぜあなたとやりたいか」を照れずに伝えることですかね。その人の実績を全部把握した上で、たとえば宿のデザインをしたことがない方だとしても、「この人がやったら絶対いいものができる」とか「相手も実はこういう仕事をしたいんじゃないか?」という直感が持てたら、SNSのDMとかで普通に口説いちゃいます。

藤巻
問いを立てる時にはロジックが必要ですが、クリエイティブワークには発想のジャンプも必要で、右脳と左脳を行き来する感覚だと思うのですが、そこに関して何か意識されていることはありますか?

荒木さん
クライアントと対話する場面で意識しているのは、自分に嘘をつかないことと、相手に媚びないようにすることですね。例えば石川県小松市に古民家宿をつくるというプロジェクトでは、「ぶっちゃけ普通の人は、金沢じゃなくあえて小松に行く理由がないですよね?」と包み隠さず言うところからのスタートでした。僕は普段から、オリエン前にあまりインプットしすぎず、直感的に世の中の気分をメモしたりして、自由に発想を飛ばすようにしているんです。反対にオリエンを受けた後は、インプットされたことをロジックで整理します。10日考える時間があるなら、ロジカルに考える日と発想を飛ばす日を交互に分けて考え、5日目ぐらいに「これで勝てるかな」という案が出てくる感じですね。

藤巻
「この業界の素人の質問ですが」って前置きした上で、あえて空気を読まない発言をするのは自分たちもよくやりますね。自動車やICTの業界ではこうですが……と言い添えて、ただの物知らずではないことも伝えることでお客様の信頼を損なわないようにしたり。

荒木さん
いいですね、それ。次からパクらせてもらいます(笑)。

エンビジョンスタッフ
オリエンの際に、多少失礼でもあえて本音を言う、というのが私にはなかなかできないんです。その点、荒木さんは「自分に嘘をつかない」という個人的信念が、仕事のやり方に直結しているように見えます。

荒木さん
若い頃に経験した伊藤忠商事ドキュメントCMの仕事が影響しているかもしれません。業界でも名の知れた編集者の伊藤総研さんとご一緒したんですが、どんな凄い人だろうと思っていたら、一人の人間としてのごく普通の感覚を大切にしている方でした。僕は文字起こし担当として取材に同席していたのですが、決してビジネス的ではなく、「あなたの仕事のことをもっと知りたい、聞きたい」という素直な気持ちが相手に伝わるんでしょうね。自然と取材対象者の気持ちが上がって、いつの間にか皆さんご自分の仕事を熱く語り始めるんです。それがあのCM群につながっています。自分はまだその境地に達してはいないですが、だんだんできるようになってきたかな、と思います。

人間にしかない「決断する力」を支えるために、クリエイティブの力を社会にもっと

エンビジョンスタッフ
荒木さんのクオリティラインの高さがどこで養われているのかということと、毎回のお仕事のたびに、それをどんな思いで超えているのかが知りたいです。

荒木さん
自分もまだ模索中なのでお答えするのは難しいですが、いいものをたくさん見るように心がけたり、自分より年齢が下だとか上だとかを気にせず、いいものを作っている人へのリスペクトを持って、そういう人と話す機会を設けることですかね。あとは仕事のクオリティを下げる要因って「お金と事情」がほとんどで、それは突き詰めればクライアントとのパートナーシップに行き着くと思うんです。そこを突破できずに諦めるのは嫌なので、クオリティをブレさせないために、最初の合意をしっかりすることは意識しています。

藤巻
これからの時代、クリエイティブの役割はどう変わっていくと思いますか?あるいは、ご自身の意識や行動で、変化した点があれば。

荒木さん
僕はクリエイティブとビジネスを統合的にやりたいという思いがあって、広告制作会社から事業会社に移ったんですね。今はまだもがいている最中ですが、事業会社に来て改めて思うのは、純粋なクリエイター的職能のパワーって超重要だなということです。というのも、AIの進化とどこまで関係しているのかはわからないですが、ビジネスの現場で「ジャッジする力」が弱くなっているのを、ここ3〜4ヶ月ほど痛感しているんです。クライアント側でも「AIに聞いてみたら、こういう回答だったんですけど」という発言が出たり、「この案でいい気もするけど、どうなのかな」というふうに逡巡して決断が遅くなる傾向が強まっている気がします。でも、そこでクリエイティブ側が圧倒的に自信を持って「絶対にこれです」って言い切ることで、先方にも覚悟が生まれる、という面はあると思います。

藤巻
こちらが自信を持って提案してこそクライアントの腹も決まり、「この案で成功させよう」というポジティブな気運が生まれる、というのは本当にそうだと思います。それが独りよがりにならないのは、ちゃんとロジックで分析していたり、未来を妄想し、越境したまなざしで物事を見ていたりするからですね。やはり、論理的思考(左脳)と想像力・発想力(右脳)の高度なバランスは、クリエイターに限らず、とても大切なことと思います。

事業の根っこから関わり、数十年先の未来をつくる息の長いブランディングを

藤巻
クライアントサイド(=事業会社)に移られて、ほかに何かご自身の中で変化を感じることはありますか?

荒木さん
事業会社に来て大きく変わったのは、クリエイティブの耐久性についての考え方です。広告畑の仕事の多くが、数ヶ月や1年という射程距離で効果を考えているのに対し、ホテルは10年20年、場合によっては100年続くコンセプトを立てないといけない。それはブランディングを考える上ですごく効いていると思います。

藤巻
時にはクライアント側が、自社のブランドなのに誇りを持てないまま、なんとなくオリエンしてしまっている場面に出くわすこともあると思います。クライアントにも、自社ブランドへの矜持はとても大切ですね。もっと魂を込めて説明してほしいと感じる時、それをどう伝えますか?

荒木さん
プロジェクトを統括する役員クラスと、オリエンシート作成を任される担当者の間で、視座や理解度のギャップがあって、「担当者がオリエン資料をつくり切れない」というケースはままあると思います。そんな時、僕は最近「オリエンそのものから一緒につくらせてください」と言っているんです。僕がつくり込みを担うというよりは、僕を壁打ち相手にしていただいて、お客様と一緒につくっていくイメージです。手間はかかりますが、根っこから関われるのは自分たちにとってもポジティブなことと捉えています。
  

藤巻
なるほど、課題整理のスタート地点から並走を始めることは、クライアントとのパートナーシップ形成にも大きな意義がありそうですね。それに、そういうサポートが必要な事案は、自分たちが思っている以上に多そうです。ブランディングやクリエイティブというアプローチ=選択肢を、もっと、広く多くの人たちに知っていただき、実装していただきたいという想いです。

今日はエンビジョンの期初キックオフミーティングにふさわしく、心の温度が上がるお話をお聞かせいただいて非常に楽しかったです。どうもありがとうございました。