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2025/11/20

サービスデザインが導く事業成長!実装のプロセスや成功のポイントを解説

コラム

近年、モノの差別化が限界を迎える中で、企業が注目しているのが「体験価値の設計」です。単なるUX改善ではなく、サービス全体を顧客中心に再構築する“サービスデザイン”が、事業成長の新しい鍵として注目されています。
この記事では、サービスデザインの基本となる6原則や実装のプロセス、成功のポイントなどを解説します。

サービスデザインとは?【サービス全体の仕組み作り】

サービスデザインとは、顧客にとって望ましいサービスを設計するための手法です。政府機関が公開する資料によると、サービスデザインは以下のように定義されています。

サービスデザインは、顧客にとって望ましい連続的な“体験”を提供するための仕組みとして“サービス”を構想し、実現するための方法論
引用元:政府 CIO 補佐官等ディスカッションペーパー

サービスデザインの対象となるのは、製品自体やデザインといった一部分だけに留まりません。製品とユーザーとの接点や、購入・導入後のアフターサポート、契約終了まで一連の流れを包括的に設計し、より良い体験を提供することがサービスデザインの目的です。昨今においては、官民双方からサービスデザインの考え方が注目されています。

サービスデザインとCX、UXデザインとの違いについて説明した画像

CXデザインは「顧客に見える体験をデザイン」

CXデザインは、サービスデザインとの関連性が高い用語です。CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、顧客体験のことで、商品やサービスの利用前後にあたる、購入前や購入後も含んだ体験を意味します。
CXデザインは、商品やサービスの認知から購入後まで、生活者が体験する一連の体験すべてをデザインすることです。CXデザインも、サービスデザインの工程の一つとして位置づけられます。

UXデザインは「体験そのものをデザイン」

サービスデザインと関連する言葉として、UXデザインも挙げられます。UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、商品やサービスを通じてユーザーが得た体験のことです。
UXデザインは、商品やサービスを利用する体験そのものをデザインすることを指します。サービスデザインの工程の一部として、UXデザインが含まれます。

サービスデザインがビジネスで重要視される理由

ビジネスにおいてサービスデザインが重要視される理由は、“より良い体験の提供による差別化”が求められるようになったことが挙げられます。
モノが溢れる現代では、商品そのものの機能や品質だけで他社と差をつけることが難しくなっています。そのため、企業は顧客が商品やサービスを通じて得る体験そのものを価値として設計し、他社との差別化を図る必要があります。

このとき重要となるのが、体験を中心にサービス全体を設計するサービスデザインの考え方です。サービスデザインを導入することで、顧客視点に立った付加価値の創出や満足度の向上が可能になります。

さらに、サービスデザインを取り入れることで、顧客の潜在的なニーズを発掘し、新規事業の創出や既存事業の改善にもつなげられます。顧客の声を反映したサービス設計による満足度の向上や、他社との差別化によるブランド価値の強化などが代表例です。
また、顧客体験を継続的に最適化することで、長期的な信頼関係を築き、安定した収益基盤を確立しやすくなる点も、サービスデザインが注目される理由の一つです。

サービスデザインの基本となる6原則

サービスデザインを実践する際は、基本となる原則を理解しておくことが重要です。ここでは、サービスデザインを実践するための6つの原則について解説します。

サービスデザインの6原則について説明した図

人間中心:関わるすべての人の体験を起点にする

人間中心(Human-centered)とは、サービスの影響を受けるすべての人の体験を考慮することです。例えば、製品やサービスを利用する顧客だけでなく、それらを販売・提供する企業の従業員など、すべての関係者にとって、より良い形でサービスを設計する必要があります。

共働的であること:多様なステークホルダーを巻き込む

共働的であること(Collaborative)とは、サービスデザインのプロセスには多様な背景や役割を持つステークホルダーが、積極的に関与しなければならないという原則です。サービスに関わるさまざまな人からの意見を取り入れたり、議論する機会を設けたりすることで、サービスデザインに関するアイデアが深まります。

反復的であること:プロセスを繰り返し、体験を磨く

反復的であること(Iterative)は、サービスデザインのプロセスを繰り返し、より良い体験を作り出すという原則です。サービスデザインでは、サービスの実装に向けた探索や実験、改善といったアプローチを反復的に行う必要があります。サービスデザインの各ステップを繰り返すことで、継続的な体験のブラッシュアップが可能です。

連続的であること:一貫した体験を提供する

連続的であること(Sequential)とは、顧客に対して一貫した体験を提供することを指します。サービスデザインにおいては、サービスを相互に関連する行動の連続として可視化し、統合することが重要なポイントです。
例えば、商品を購入するという体験には、検討や問い合わせ、購入、購入後の利用といった複数の行動が含まれます。これらすべてにおいて、一貫した体験を連続的に提供することが、満足度の向上につながります。

リアルであること:現実に即した形で検証する

リアルであること(Real)は、製品やサービスの提供を開始する前に、現実に即した形で検証を行うという原則です。実際にあるニーズを調査した上で、現実に根差したアイデアのプロトタイプを作ることが求められます。形のない価値については、物理的な製品やアプリなどのデジタル的な実体を持つものとしてプロトタイプを作った上で、検証することが重要です。

ホリスティック(全体的)な視点:ニーズ全体を俯瞰する

ホリスティックな視点(Holistic:全体的)とは、サービスに関わる全ての人のニーズを俯瞰してサービスデザインを行うという原則です。サービスデザインにおいては、すべてのステークホルダーのニーズに持続的に対応するものとしてサービスを設計・実装することが求められます。

サービスデザイン実装までのプロセス

サービスデザインの取り組みには、ステークホルダーのニーズを把握し、サービスを構想して試作・検証を経て実装に至るまで、複数の工程が含まれます。

具体的なプロセスは以下のとおりです。

サービスデザインのプロセスについて解説した画像

リサーチ(調査)

最初のプロセスは、生活者の価値観やニーズ、行動などのリサーチです。また、必要に応じて市場調査や競合調査などを行い、外部要因についても調べます。
定量的なアンケート調査や、インタビューなどの定性調査を実施することで、生活者の感情や行動の背景を深く理解できます。また、ユーザビリティテストや専門家によるレビューを実施すると、行動パターンや体験上の課題を明確にすることが可能です。

アイディエーション(発想・構想)

アイディエーション(発想・構想)のプロセスでは、リサーチによって明らかになった生活者の価値観やニーズをもとに、新しい体験やサービスの方向性についてのアイデア出しを行います。
アイディエーションでは、課題解決のための仮説を立てながら、多くのアイデアを生み出すことが重要です。デザイナーやエンジニア、マーケターなど、組織内で異なる専門性を持つ人同士が協力することで、多角的な視点から議論を深められます。

アイデアを出すための手法としては、「Crazy 8’s(クレイジー・エイツ)」や「タイムマシン」などが代表的です。Crazy 8’sでは、メンバーが数十秒間の短い時間で8つの異なるアイデアを書き出します。タイムマシンは、過去・現在・未来の課題について解決策を書き出していく手法です。
いずれの手法でも、奇抜な発想や当たり前の意見を否定せず、自由に意見を出し合うことがポイントです。

プロトタイピング(試作・検証)

プロトタイピングでは、実際に出たアイディアをもとに新しいデザインや機能を試作し、検証を行います。生活者のニーズを反映できているか、課題を解決できているかといった観点が、プロトタイピングで確かめるべきポイントです。

プロトタイプには、大きく分けて「ペーパープロトタイプ」と「デジタルプロトタイプ」の2種類があります。ペーパープロトタイプは紙に描いて構想を可視化する方法で、短時間で作成できることがメリットです。一方、デジタルプロトタイプは専用のツールを使って画面構成や操作感を再現する方法で、完成品に近い状態でサービスを検証できます。
プロトタイピングを通して課題が見つかった場合には、再びアイディエーションの段階に戻り、アイデアを練り直して改良を重ねます。

実装(開発・展開)

実装のプロセスでは、プロトタイピングで得られたフィードバックを反映しながら、実際の本番環境でサービスの開発・展開を行います。

開発の段階では、サービスを本番環境で動かすための具体的な設計が必要です。例えば、アプリであれば操作画面や内部のデータ処理、情報セキュリティなどを考慮して開発を行う必要があります。

PDCAのサイクルについて説明した画像

また、製品を開発する場合は、生産体制の構築もこの段階で必要な取り組みです。
さらに、実装後も定期的にリサーチを行い、PDCAサイクルを回しながら日々改善をはかっていくことが求められます。

サービスデザインを成功させるポイント

サービスデザインを成功させるポイントとして、リサーチ時に分析用フレームワークやツールの活用がおすすめです。ステークホルダーのニーズや価値観、目的などは日々変化していくものであるため、定期的なリサーチを実施し、PDCAサイクルを回して継続的に改善する必要があります。

また、商品やサービスの質だけではなく、運用体制や生活者への提供、サービスのクオリティなど、全体を俯瞰することも重要です。自社だけによる取り組みが難しい場合には、外部の専門家を活用することも検討してみてください。

サービスデザインの導入・成功事例

サービスデザインの導入・成功事例として、クレジットカード事業などを展開する株式会社ジャックスと、ICT技術を活かしたソリューションを提供する双日テックイノベーション株式会社の例を紹介します。

株式会社ジャックスでは、国内事業の収益強化を目的として、サービスデザインによるプラットフォームの構築に取り組みました。
複数のステークホルダーにとって役立つプラットフォームを構築するにあたり、複数の事業部門やシステム部門に加え、システム利用者にもインタビューを実施し、ニーズ抽出を行いました。
これにより開発者目線では気づけないような現場のニーズを拾うことに成功。そのほか、競合分析やコンセプト・デザインも設計し、要件定義を最適化させました。その結果、サービス利用者が使いたくなるシステムを、最小限の機能で実現することに成功しています。

株式会社ジャックスのサービスデザイン事例
引用:株式会社エクサ「大規模なステークホルダー様向けプラットフォーム構想をデザイン思考でのアプローチにより業務要件を集約」

双日テックイノベーション株式会社(旧日商エレクトロニクス)では、自社のサービスの価値を伝えきれていないという課題を抱えていました。サービスデザインの考え方をもとに、各事業部の担当者が参加するワークショップを実施し、8つに分かれていた事業をひとつにまとめるワンブランド構想を打ち出しました。
「Natic」という新たなブランドのもと、8つの事業を統合する形でWebサイトをリニューアルし、生活者への訴求や社内のチーム組成の強化に成功しました。

双日テックイノベーション株式会社のサービスデザイン事例
引用:モンスターラボグループ「日商エレクトロニクス|8つの事業をワンブランドに統合し、サービスが持つ魅力を最大化」

サービスデザインの思考法を軸として顧客体験を強化しよう!

サービスデザインは、サービス全体を設計し、より良い体験を提供するための手法です。ニーズをリサーチした上で数多くのアイデアを出し、プロトタイプを作って検証・改善を繰り返すことで、より良いサービスを実装できます。

サービスデザインの思考法を軸として、顧客体験の強化に取り組みましょう。


当社は、ブランディング、マーケティング、クリエイティブに加え、財務、法務・知財、人事・労務などの領域横断チームに基づきクリエイティブコンサルティング事業を展開しています。

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