INSIGHTS

2025/06/10

ブランディングの意味とは?企業が行う目的や効果、手順を解説

コラム

ブランディングとは、企業や商品のイメージを世間に定着させるための戦略的な活動のことです。ブランドイメージを確立することで、競合との差別化が可能となり、顧客との信頼関係も深まります。
本記事では、ブランディングの基本的な意味から、目的、効果、具体的な手順までをわかりやすく解説します。さらに実際の事例も紹介しますので、ブランディングについて知識を深めたい方は最後までご覧ください。

ブランディングの意味

ブランディングとは、企業や製品が消費者に与えるイメージを意図的に形成する包括的な活動であり、短期的な売上を効果的に上げていくマーケティングとは異なる継続的な取り組みです。主な目的として、以下の3つが挙げられます。

  • 顧客から選ばれ続ける
  • 自社や商品(サービス)の独自性を認識させる
  • 他社と差別化する

つまり、ブランディングは単なる販促活動ではなく、一定の認識やイメージを消費者の心に深く根付かせることを目的とした戦略であり、企業や商品のアイデンティティを強化するための重要な手段であるといえます。
ブランド用語は定義が人によって異なりますが、本記事では「一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会」の定義に基づいて説明します。同協会によると『ブランドとはある特定の商品やサービスが、消費者・顧客によって「識別されている」とき、その商品やサービスを「ブランド」』と定義しています。また、ブランドイメージは、「消費者・顧客が心の中に抱く、ブランドに対する心象のこと。」です。

引用:ブランド用語集|一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会|ブランド・マネージメントの資格取得

なお、ブランドには以下のような区分も存在します。

  • コーポレートブランド:企業そのものがブランド化したもの(トヨタなど)
  • 事業ブランド:企業が展開する特定の事業部門を明確化するためのブランド(ユニクロ、星のやなど)
  • サービスブランド:企業が提供する特定のサービスをブランド化したもの(Uber、 Airbnbなど)
  • 商品ブランド:企業が提供する特定の商品をブランド化したもの(ポカリスエット、ファンタなど)
  • テクノロジーブランド:企業が保有する独自の技術力にブランド価値を与えたもの(プラズマクラスター、ヒートテックなど)
ブランドにおける5つの区分を表す図

ブランドを構成する要素

ブランドを構成する主な要素として、以下の6つが挙げられます。

要素概要・目的
ブランド名企業のアイデンティティや思いを端的に表す重要な要素。的確なネーミングによって、消費者に強い印象を与え、記憶に残りやすくなる。
ブランドカラー視覚的に企業や商品を認識させる役割を果たす。
類似した色をほかの商品や場所で見た際にも自社のブランドを想起させる。
ブランドロゴ視覚的にブランドの認識を深めるための要素。
価値観や特徴を象徴し、一目でその企業を認知させる。
ミッション企業の存在意義や目的を明文化したもの。
消費者の共感を呼び起こし、精神的なつながりを強化する。
企業の特徴他社との差別化を図り、独自性や個性をアピールする。
キャラクター親しみやすさを与え、幅広い年代にアプローチしやすくなる。

構成要素は企業によって異なるため、すべてを取り入れる必要はありません。重要なのは、各要素が一貫性を持って表現されていることです。

ブランディングの分類

ブランディングは、大きく以下の2つに分類されます。

ここからは、各戦略の意味や目的について解説します。

インナーブランディング(インターナルブランディング)

ブランド・マネージャー認定協会では、次のように定義しています。

“「Internal」は「内側の」という意味で、社員、非正規労働者(契約社員・パート・アルバイト)、臨時・常駐スタッフ、また協力会社など、企業の内側にいるあらゆる関係者に向けて行うブランディング活動のことを呼びます。”

具体的な活動としては、社内広報・社内イベント・SNSでの発信などが挙げられます。
また、インナーブランディングには、採用や育成に関するブランディングも含まれます。これらの活動の主な目的は、企業の内側にいる関係者にブランド価値や企業理念などを浸透させることです。社員の意識を統一することにより、社外へのブランディング(アウターブランディング)をより効果的に行えるようになります。

引用:ブランド用語集|一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会|ブランド・マネージメントの資格取得

アウターブランディング(エクスターナルブランディング)

ブランド・マネージャー認定協会では、次のように定義しています。

“「External」は「外側の」という意味で、具体的には、消費者・顧客、投資家(株主)、取引先、地域社会、行政機関など、企業活動に関わるさまざまなステークホルダーに向けて行うブランディング活動のことを呼びます。”

具体的な活動としては、企業ブランディングや商品・事業ブランディングなどが挙げられます。
主な目的は、ブランドやサービスのイメージ向上です。これにより、潜在的顧客の関心やリピーターの獲得につながり、安定した経営が実現します。

引用:ブランド用語集|一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会|ブランド・マネージメントの資格取得

ブランディングの効果

ブランディングは、企業や製品の認知度を高め、顧客の信頼を築くことに貢献します。ここからは、ブランディングがもたらす具体的な効果を5つ解説します。

ロイヤルユーザーの獲得

ブランディングは、信頼感と共感を生み出し、ロイヤルユーザーの獲得につながります。ロイヤルユーザーとは、自社の商品を安定して購入してくれる顧客のことです。
自社の商品やサービスのファンであるため、他社の商品に目移りしにくいことが特徴です。また、一般顧客と比較すると、購買単価が高い傾向にあり、ロイヤルユーザーを多く持つブランドは、長期的な利益の獲得や企業の成長が促進されます。

価格競争を回避

ブランディングが確立されると、企業は価格競争から脱却できます。顧客がブランド価値を明確に認識することで、商品を選ぶ際に単なる価格の安さではなく、品質や信頼性、ブランドの世界観などの要素を重要視し、他社の商品と明確に区別するようになるからです。
結果として、類似した商品でも、価格以外の要素で優位に立つことが可能です。

広告宣伝費の抑制

ブランドが確立し、企業のイメージが向上すると、高額な広告宣伝費をかけなくても、自然と口コミやリピーターの獲得が進みます。近年は、口コミが今まで以上に重視されており、既存顧客の評判で新規ユーザーを集客することも可能です。
また、顧客が商品を選ぶ際には、ブランド名だけで選択候補に上がることも少なくありません。ブランドの価値や信頼度が顧客に根付くことで、広告宣伝にかける費用を最小限に抑え、より効果的なマーケティング施策を選択できるようになります。

人材の獲得や業績の向上

ブランディングによってブランドイメージが向上すると、企業の認知度や信頼性が向上し、人材の獲得や業績の向上につながります。特に、ブランド力のある企業は、求職者の目に魅力的に映り、優秀な人材が集まりやすくなります。
また、ブランドのファンであることを理由に入社を希望する人も少なくありません。その結果、企業は採用コストを削減できるというメリットもあります。また、ブランディングにより、優秀な人材が集まることや社員の帰属意識が高まることで、さらなる業績の向上にもつながります。

社員の帰属意識やロイヤルティ向上

インターナルブランディングを強化し、社内にブランディング戦略が浸透すると、社員の帰属意識やロイヤリティの向上につながることがメリットです。企業に愛着を持ち、仕事に誇りを感じることで、モチベーションが高まり、生産性が上がります。社員の愛社精神は、企業の安定的な成長を支える重要な要素となるでしょう。
一方、エクスターナルブランディングは、企業の認知度や魅力を高め、人材の確保にも効果的です。インターナルとエクスターナル両方からブランディング戦略を強化することで、さらなる発展が期待できます。

企業ブランディングの手順

企業ブランディングを成功させるためには、適切なプロセスで進めることが大切です。ここからは、具体的な手順を解説します。

  1. 自社の現状分析からブランドの方向性を決定
  2. ブランドコンセプトやブランドアイデンティティを設定
  3. ブランド情報を発信
  4. ブランド認知度を検証
  5. PDCAを回す

※プロジェクトを推進するにあたっては、経営陣のコミットメントと関連部門の参画やメンバー構成も重要です。

自社の現状分析からブランドの方向性を決定

企業ブランディングの最初のステップは、自社の現状分析を行うことです。自社の強みや弱み、市場での位置付けを客観的に把握し、競合他社との差別化ポイントを明確にします。
分析の際には、フレームワークを活用するのが一般的です。代表的なフレームワークとして、以下の4つが挙げられます。

分析手法構成要素概要・目的
3C分析(スリーシー)・Customer(市場・顧客)
・Competitor(競合)
・Company(自社)
顧客のニーズと、自社と他社の強み、弱みを比較し、戦略を立案するための分析手法。
PEST分析(ペスト)・Politics(政治)
・Economics(経済)
・Society(社会)
・Technology(技術)
外部環境を構成する4つの要因から、自社を取り巻く状況や影響を評価する手法。
5フォース分析・競合他社との関係
・新規参入の脅威
・売り手の交渉力
・買い手の交渉力
・代替品の脅威
競争要因を5つの視点から評価し、競争環境を理解する手法。

これらのフレームワークは、目的に応じて組み合わせて使用できます。各手法の視点を生かし、分析を補完することで、より効果的な戦略の立案が可能です。

ブランドコンセプトやブランドアイデンティティを設定

ブランドの方向性が定まったら、ブランドコンセプトとブランドアイデンティティを設定します。ブランドコンセプトは、企業が提供する価値やメッセージをわかりやすく言語化したものであり、目的を明確に伝える役割を担います。また、企業の方向性を効果的にアピールできることが利点です。

ブランドアイデンティティは、「ブランドに抱いてほしいイメージ」を表現し、個性を際立たせるために設定します。ターゲット層を理解し、ロゴ・カラー・フォント・トーンなどの要素を通じて独自性を強調し、顧客の共感を引き出す意味があります。
ブランドコンセプトとアイデンティティを設定する際に最も大切なのは、一貫性を持たせることです。それにより、ブランドの価値が印象付けられ、顧客からの信頼度が向上します。

ブランド情報を発信

続いて、ブランドコンセプトやロゴ、企業の思いなどのブランド情報を発信します。
ターゲット層がよく利用するメディアの候補の中から、適切な媒体を選び、一貫性のある情報を発信することが重要です。人は目から得る情報が全体の80%を占めるといわれているため、視覚的にブランドの価値を伝えることも不可欠です。
また、定期的な情報発信により、ブランドへの価値が浸透し、顧客との強固なつながりが形成されます。

ブランド認知度を検証

ブランディングを開始して一定期間が経過したら、ブランド認知度がどれだけ高まったかを確認します。具体的には、以下の方法で調査を行います。

  • ターゲット市場にアンケートを実施し、ブランド名やロゴを見て商品を認識できるかどうかを確認する
  • SNSのインサイトツールを活用し、いいね・コメント・シェア・フォロワー数の増減、ハッシュタグの使用頻度などを測定する
  • Google Analyticsなどのツールを使用し、ブランド名や関連キーワードでの検索トラフィックを調べる
  • 専門の調査会社に依頼して、認知度を測る市場調査を実施する
  • 顧客に直接インタビューを行い、具体的なフィードバックを得る

また、ターゲットの認識と、自社が設定したブランドコンセプトやブランドアイデンティティにズレがないかを検証することも重要です。これらの検証を行うことで、ブランド戦略の効果を把握し、今後の戦略立案に生かすことができます。

PDCAを回す

ブランディングを進める上で大切なのは、PDCA(ピーディーシーエー)サイクルを繰り返すことです。PDCAとは、次の頭文字を取ったものです。

  • Plan(計画)
  • Do(実行)
  • Check(測定)
  • Act(対策)
PDCAサイクルのプロセスを表す図

計画を立て、実行し、その結果を検証して、正しい方向に軌道修正を図るというプロセスを繰り返すことで、ブランディングの精度が向上し、市場の変化に柔軟に対応できます。
ただし、ブランドの基盤であるブランドコンセプトやブランドアイデンティティを頻繁に変えるのは避けるべきです。あくまでも、自社のコンセプトを軸にしながら、ユーザーとのギャップを埋めることが重要です。

プロモーション・マーケティングとの違い

ブランディングと類似した施策に「プロモーション」や「マーケティング」があります。

ブランディングブランドの価値を構築し、企業・顧客・社員に共通のブランドイメージを根付かせることを目的とします。
プロモーションマーケティング活動の一環であり、販売促進を主たる目的としています。具体的には、メディアとの関係を強化し、外部広報活動や社内報を発行して企業文化の浸透や社員のエンゲージメントの向上を図ることなどが挙げられます。
マーケティング顧客のニーズを分析し、購買意欲を高めることで、商品やサービスが自然に売れるようにする仕組みを作ることが目的です。

それぞれの役割を理解し、適切に使い分けることで、ブランド価値の最大化が可能です。ここからはマーケティングに焦点を当て、ブランディングとの違いを詳しく解説します。

ブランディングとマーケティングは活動の目的が異なる

マーケティングは、商品やサービスを「今すぐ買ってもらう」ことを目的とし、短期的な売上向上を重視する戦略的な活動です。具体的な施策には、市場調査、ターゲット分析、販促施策、流通戦略などがあります。
一方、ブランディングは、企業やサービスの価値を消費者に認識させ、他社との差別化を図ることが主な目的です。信頼や共感を得ることで長期的な関係を築き、結果として購買促進につなげます。

企業のブランディング事例

企業のブランディング戦略は、業界やターゲット顧客層、商品、サービス、目的などによって戦略が異なりますが、成功事例を参考にすることで、自社の強みや方向性を見いだすヒントを得られる可能性があります。
ここからは、具体的な事例を2つ紹介します。

パナソニック サイクルテック株式会社

パナソニックサイクルテックのリブランディング事例では、電動アシスト自転車の価値を再定義し、家族向けの新しい感動体験を強調しました。
新しいブランドコンセプト「MOOVING!」では、日常生活における感動的な瞬間を描き、ユーザーのライフスタイルを向上させることを目指しました。また、実用性と情緒的価値の両方を訴求しています。

スターバックス・ザ・サードプレイス

スターバックス・ザ・サードプレイスのブランディングでは、家でも職場でもない「ザ・サードプレイス(第三の場所)」として、心地よさとコミュニティ感を強調しています。
さらに、店舗デザインやグッズに一貫性を持たせ、サステナビリティや社会貢献活動を通じてブランドの信頼性や価値を築いています。イメージを崩さない中で地域や文化に応じた個別性も大切にし、生活者との強いつながりを形成しています。

出典:Our Mission, Promises and Values|スターバックス コーヒー ジャパン

ブランディングを始めよう

ブランディングとは、企業や製品の印象を意図的に形成し、顧客との感情的なつながりを築くための戦略です。成功すれば、ロイヤルユーザーの獲得や価格競争の回避、広告費の抑制など、さまざまな効果をもたらします。
効果的なブランディング戦略を実現するには、PDCAサイクルを回し、状況に応じて適切に軌道修正を行うことが重要です。本記事で紹介したステップや成功事例などをヒントに、自社にとって最適なブランディング施策を模索してください。

なお、ブランディングは社内で進めるのが一般的ですが、外部の専門家やコンサルタントなどを活用することで、第三者の視点を挟むことができ、より効果的な戦略を構築できます。


当社は、ブランディング、マーケティング、クリエイティブに加え、財務、法務・知財、人事・労務などの領域横断チームを基にクリエイティブコンサルティング事業を展開しています。
成長を支えるパートナーとして、ブランド戦略立案から皆様の「ありたい姿」の実現をサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。