envisionの種

2025/12/25

時代の読み方:歴史をつくるブランド・デザインVol.1(3回連載)

コラム

現在、世の中には環境問題、少子高齢化に伴う地域課題など、社会課題が数多く顕在化しています。しかしながら、まだ表面化・顕在化していない課題も多く存在し、個人が日々の生活の中で感じる僅かな違和感や疑問を抱く具体的な事象がたくさんあります。私たちenvisionでは、その身近にある小さな“種”を見つけそれらの具体を抽象化し、意味のあるテーマに昇華させていきます。そして、それらのテーマを俯瞰し、深堀りし、探求したカタチを社会に積極的に発信していくことを目指しています。

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藤巻功
エンビジョンCOO兼CBO

事業成長を加速させ、人を動かす「クリエイティブのチカラ」を信じているブランディングの専門家。国内大手広告代理店等を経て、インターブランドジャパンにて戦略ディレクターとして、グローバルを含む多様な業界の大規模プロジェクトを多数リード。その後、楽天グループ、KPMGコンサルティングにてブランディング/マーケティング&クリエイティブを統括。envisionでは、社会課題を解決するWoWなブランド・クリエイティブ開発、ブランディングの民主化に邁進する。

エンビジョンの事業

私たちenvisionは、これまでクリエイティブを通じてさまざまな課題解決に取り組んできました。そしてパートナー企業(クライアント)の課題発見・解決はもちろん、コミュニケーションを形にし、世の中に共感を生み、社会を変えていくクリエイティブコンサルティング事業を”envision CREATIVE”と定義しました。経営全体を見据えた視点から経営課題の解決に向け、CRITICAL CREATIVE(世の中で「そういうもの」「常識的なこと」と疑わずに受け入れていることへの批判的な考察・視点)を起点に、ブランディング、マーケティング、クリエイティブ、そして財務、法務・知財、人事・労務等、領域横断による連携チームを核として、成長に向けた事業パートナーを目指していきます。envisionのパーパス、ミッションに賛同する同志の共感と共創の環を拡げていくオーケストラ型クリエイティブを志向しクライアントの真の課題を解決していきます。

歴史をつくる、文化となっていく、ブランドが示す自己表現とは?

歴史をつくるブランドへの時代の読み方とは?さて、どのように考え、捉えていけば良いでしょうか?

ブランドが存在感あるものなっていくためには。。。人々やターゲットのニーズを満たすだけではなく、ブランドが人々やターゲットの「自己表現」を可能にするような新しいスタイルや世界観を提示し、「新たな意味」を見出していくこと。ここでの「自己表現」とは、ブランドが未来社会に存在している本質的な意義や意味を表明できること、すなわち「ブランドが社会と接続し既存の価値観の延長線上にない新たな価値表現」のことを指しています。そしてそれらは、社会に浸透・定着し、やがて文化となっていきます。

さて、これまでこのようなブランドはたくさんあったと思います。

例えば:時代を創ってきたブランドたち(モノやコト)

  • 三井越後呉服店(現在の三越)
  • スバル360・スバル1000(SUBARU)
  • SONYウォークマン
  • 西武百貨店、セゾングループ
  • クリナップ システムキッチン
  • TOYOTA プリウス

これらは、何らかの発想やアイデアによって生まれたイノベーティブなモノ・サービスです。人々はそれを単に便利だから、つまり自分たちのニーズを満たしてくれるからという理由だけで選択するのではないということですね。それだけではなく、「自らの意志で選び取ることで新しい自分を表現できる」から選択する、のではないでしょうか。

このように、いわば新しい「自己表現」の方法を獲得した人々は、独自の”新しいスタイル(思考・行動様式)”に納得します。これが意味するところは何でしょうか。既存の世界やその背後にあるイデオロギー(既成概念や価値観、歴史観など)にその重要性を感じられなくなっている人々にとって、魅力的でワクワクするような思考・行動様式を産み出していると捉えられます。そしてこれは、ある時代には支配的で一般的と認識されていたこと=その時点での常識や固定観念に比して、「これまでにはない私」を感じられ、世の中に定着していくことになる〈=これまでとは違った異文化〉、ということかもしれません。

この状況全体を俯瞰的(人文社会学、哲学などの観点から)にみると、革命に見える、つまり、歴史をつくっている、ともいえるかもしれません。COTEN Radio(コテンラジオ)をご存じでしょうか。株式会社COTENが配信する、歴史を面白く学ぶインターネットラジオ(ポッドキャスト)番組で、「人類とは何か」「現代社会の悩み」などを歴史のレンズを通して紐解いていく、新感覚の歴史キュレーションプログラムで、とても魅惑的なものです。5−10年程度の短期スパンではなく、もっと長い1,000年単位で「歴史を捉え、学ぶ」ことはロマンであり、今につながる何かを探索できるかもしれません。

未来につながる稀有なブランドたち!

さて、現在において、時代を創っていきそうなブランドがあるでしょうか?

例えば:現代における時代を創っているブランドたち(モノやコト)

B2C中川政七商店「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、日本の風土に根ざした工芸品を、企画・製造・販売する製造小売業(SPA)
オイシックス・ラ・大地食の社会課題解決を目標にサプライチェーン全体でのフードロス削減や持続可能な食文化を創造
マザーハウスバングラディッシュの素材や職人の技術を活用してバッグ、ジュエリー、アパレルなどを企画・生産・販売する日本のファッションブランド
B2Bエムスリー医療従事者向けサイト「m3.com」を核とした、医療情報サービスや製薬会社支援、人材サービスなど多岐にわたる事業を展開
Mujin製造・物流現場の自動化を実現する産業用ロボット向けのソフトウェア開発
CADDI製造業AIデータプラットフォーム

現在において時代を読むことは、結果としてのイノベーション創出のヒントになりえます。ただし、①トレンド(=30〜50年後も変わらない潮流←人口減少、高齢化など)と②流行り(=一過性のもの、○○という新語、海外からどんどん日本に入ってくる経営用語など)を区分しないと、動きを見誤ってしまいます。企業や製品・サービスの観点では、短期的成長には、流行りに乗るはあると思いますが、それはイノベーションの源泉にはなりえないのではないでしょうか?つまり、①と②の間にある、生活者やB2B企業が、顕在化はしていないが潜在的な課題(=ちょっとした動きの変化や違和感など)を発見(=既存概念や価値観の解消=新たな意味/価値への転換)し、それらを解決した結果としてイノベーションに繋がっていく可能性はあります。

ただし、この捉え方において留意するポイントがあります。「見送ってよい常識」と、「クリティカルに疑う常識(心が掻き乱され人々が目を向けてしまうようなもの)」をどのように見極めるのかの選球眼が大切となります。

また弁証法(過去のシステムの発展的な回帰として洞察する)のように、歴史に学び、再度捉え直すことで見えてくることも大いにあります。さらに「何が正しいイノベーションか」ということも難問です。「正しい」は、どの観点でどうみるか、判断するかによってことなってきます。オールドメディアの論調やSNS投稿などに踊らされ、自分では判断していないということも大いにあり得ます。倫理的な正しさは、前提として(性善説として)捉えてはいます。「正しさ」は発信していく主体(=多くは、企業や製品/サービス)の意思であり、信念に基づいていると考えており、それは社会課題や地域課題を見つけ、ビジネスで解決していくことで、社会や世の中をより良い方向に変えていこうとする志とも捉えられます。

そうした「志」に共感する企業や生活者が増えていくこと=環が拡がっていくことが、結果として、イノベーションとして捉えられるものになるのではないでしょうか。

アート分野における創造性も、時代コンテクストが関係している?

アートというとどんな印象を持つでしょうか?まさに、感性と才能によるクリエイティビティ=作品というイメージかもしれません。ですが、アートも近代まで、歴史的・社会的コンテクストのもとに、時代ごとにイノベーションが起こってきています。

例えば、キュビズム。19世紀末のモダニズムの流れの中で、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックの実験によって創始された運動であり創造的な探求の具体例です。モダニズムは「伝統からの脱却と形式の革新」という創造性の精神的基盤を提供していて、キュビズムはその精神を土台にしています。またピカソの「アビニョンの娘たち」(1907年)を見ると、ポール・セザンヌの「自然を円筒、球体、円錐として捉える」という思想の影響も受けており、また「複数視点による形態の解体と再構築」という具体的な技法の開発は、特に植民地からパリに持ち込まれたアフリカンアート(原始美術)の影響が強いと言われています。

どうでしょうか。創造性には確かに、「個人」のクリエイティビティは重要です。ただし、アート領域でさえも、ゼロから革新的な作品が生まれるわけではなく(もちろんそうでない作品もあるかもしれませんが)、歴史的・社会的コンテクストが関係しています。

異結合の旅へ誘う:徹底して既存の価値基準を宙吊りにしていく

普段の発想の延長線上では決して出会うことのないような、意外性のある異なる現象群を俯瞰し、全く想像だにしなかった「新たな集合知」が生まれてきます。100年以上も前にイノベーションの父と呼ばれた経済学者ジョセフ・シュンペーターの提唱したこと”New Combination(新結合)ならぬ、そんなかけ離れたある種の「視点」を交流させる異結合について考察してみたいですね。それは「離れた現象と現象」の突飛な組み合わせが実に興味深いことであり、徹底して既存の価値基準を宙吊りにする(=過去のものとして位置付ける)ことが求められるということですね。

AI時代において、「正解のコモディティ化」が進み、今後、ビジネスの重心は「問題の解決」から「問題の設定」へと変わっていきます。そこには、従前の発想を超えた「人間の考えるチカラ=妄想力」が一層大切となっていくはずなのです。

今という時代を未来に向けて読み解き、表現してみる

  • 様々な動きや現象
  • それらの異結合
  • 意外な共通項による新たな意味のシステム(ITシステムのことではなく、価値転換)とは?
  • それをどうブランド創りに活かしていくのか?

次号では、具体的に異なる様々な領域の現象から意外性ある共通項を見出し、「新たな意味のシステム」を考え、時代の「流れ」を捉えてみたいと思います。システム思考や二項対立の脱構築などとの関連性などにも注目し考察していきます。

最終号では、これまでの未来の「変化の兆し」を起点に、ブランドが創り出す世界観=社会全体にインパクトを及ぼす未来像とその検討方法について、世界観のデザインに至る「系譜」も確認しながら考察していきます。そして、システミックデザイン、あるいは「デザイン(広義のデザイン;英語では頭文字を大文字にしてDesign、ビッグDのデザインとも言う)」そのものについても考えていきます。

(注)本寄稿は、京都クリエイティブ・アッサンブラージュに参画し、そこでの学びや得られた示唆も盛り込んだ内容となっています。

京都クリエイティブ・アッサンブラージュ:京都大学・京都市立芸術大学・京都工芸繊維大学の3大学が連携し、人文社会学的視点、スペキュラティブなデザイン、アートの実践を通じて、新しい時代を切り開く「価値創造人材」を育成する社会人向けエグゼクティブプログラム

https://www.gsm.kyoto-u.ac.jp/collaborative-research/kca/?doing_wp_cron=1766099161.7845089435577392578125

https://assemblage.kyoto/

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