INSIGHTS
2026/08/28
まちを想う人をつなぎ、ともに考える「都島区の未来」。【前篇】
対談記事
大阪市都島区といえば、市の中心部・梅田エリアに近く、商業地と住宅地という二面性をバランスよく備えたまち。そこで2023年に就任した藤岡慶子区長のもと、未来を見据え約2年かけて策定されたのが「都島区まちづくりビジョン2040」です。区民・地域団体・民間事業者など、多彩な主体が立場の違いを超えて共有できる「まちづくりの共通言語」のはぐくみ方とは?地方における関係人口の増加や地域共創、地域ブランディングのあり方を考えるためのヒントに満ちた対談をお届けします。
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鹿倉彰悟様
都島区役所 政策共創担当課長
2002年大阪市役所入庁。事務職。2013年より都島区役所。福祉分野の業務を通じて丁寧な住民対応を積み重ねるとともに、市民協働に関する業務では地域団体や関係機関との連携・調整などに携わる。2025年より現職。

山下和子様
都島区役所 政策共創担当課長代理
2004年大阪市役所入庁。技術職(建築)。長年、都市整備局に所属し、地域と協働でまちづくりを行うHOPEゾーン事業や、生きた建築ミュージアム事業、公共建築物の企画・設計など、まちと建築に関わる業務に携わってきた。その他、政策企画室、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会を経て、2024年から現職。

前川淑恵様
都島区役所 総務課担当係長
2006年大阪市役所入庁。事務職。2015年より都島区役所。主に福祉分野の業務を経験し、制度理解だけでなく、住民の立場に立った対応を大切に取り組む。2026年1月より現職。都島区まちづくりビジョン2040の策定を担当し、ビジョン実現に向けて尽力中。

中井英之
エンビジョンアートディレクター
メンズインナーやライフスタイルブランドのクリエイティブディレクションを経て、ブランド・地域・人のあいだに生まれるコミュニケーションを探求。近年は、銭湯を起点にまちの資源を捉え直す「風呂式」プロジェクトを推進している。

川口翔大
エンビジョンクリエイティブディレクター
地域に受け継がれる事業者や団体の魅力ある資源に光を当てたリブランディングに取り組みたく、エンビジョンに入社。ブランドづくりの根幹となる人・組織づくりにも注力している。
Contents
5カ年計画では描ききれなかった「15年先のまちの未来図」を描く試み。
中井
今日はまず「都島区まちづくりビジョン2040」策定の背景から伺いたいのですが、これはどのような課題意識が起点になっているのでしょうか?たとえば現在、日本全体で地域コミュニティの担い手不足が課題となっていますね。
鹿倉氏
そうですね。現状では都島区はまだ人口増加傾向にありますが、試算では2030年頃から減少に転じると見込まれていて、その先を考える必要があります。そして人口動態だけでなく、都島区では町会の加入率が大阪市の平均を下回っているという課題もあるんです。地域ごとに見れば、古くからの長屋や戸建が多い地域は比較的加入率が高く、ワンルームマンションの多い地域は加入率が低い、という違いはありますが、やはり生活様式の変化や価値観の多様化により、人間関係の希薄化が進んでいる傾向はありますね。しかし一方で今後の防災、地域福祉などを考えると、地域コミュニティ醸成の必要性は一層高まっていくと思います。

中井
私自身、都島区に住んで7〜8年ほどになるんですが、都島区は縦に長くて、北部、中部、南部とエリアごとに個性が違いますね。
鹿倉氏
おっしゃる通り、北部の淀川・大東や高倉町は古くからの住宅地ですが、中部は大規模マンションが、南部の京橋周辺は若者向けのワンルームマンションが多く、状況はそれぞれ違います。
川口
もともと策定されていた「都島区将来ビジョン2030」もある中で、「まちづくりビジョン2040」を別に作られたのはどういう理由からでしょうか?
鹿倉氏
「将来ビジョン2030」は、区役所の業務全般を対象に5カ年計画で構想したものですが、「まちづくりビジョン2040」は、その別冊という位置付けで、2030年以降の長期的な社会変化も見越したうえで、まちの魅力を創出することがテーマになっています。これは「まちづくりに関わる人が同じ方向を向けるような指針を作りたい」という区長の発案から生まれたものなんです。そして背景には、区役所が取り組むサービスの話だけでなく、ハード面も含めたビジョンを、大阪市のまちづくりグランドデザインと連動して作りたいという意図もありました。
山下氏
ハードを扱うからこそ、5年スパンの将来ビジョンでは描ききれない部分があり、より長い15年スパンで作成しています。今ある地域資源に加え、公共が作るハードと民間事業者による開発の双方で、今後15年かけてまちが進化していく姿を捉える必要があったんです。

やりたいことや仲間に出会えるMeetable(ミータブル)なまちをめざして。
中井
では「まちづくりビジョン2040」のコンセプトやめざす姿について改めてお聞かせいただけますか。
山下氏
コンセプトは「Meetable Town みやこじま〜都島区版15分都市〜」です。Meetable(ミータブル)は造語で、会いたい人や行きたい場所、やりたい活動に出会えるまちという思いを込めています。「15分都市」というのは、都市開発や持続可能な開発の研究者、カルロス・モレノ氏(註:コロンビア生まれのフランスの学者)が提唱している概念で、「生活に必要不可欠なインフラだけでなく、暮らしを豊かにするものやサービス、アクティビティなどに自転車や徒歩15分でアクセスできるまち」を指しています。これは世界のまちづくりの一つの捉え方として昨今注目されている考え方で、これを都島区でも実現していきたいと考えています。

中井
非常に面白いコンセプトですね。ただ今の都島区も非常に生活基盤は整っており、すでにその概念が達成されているように思うんですが、具体的に埋めたいギャップはどの辺りにあるのでしょうか?

山下氏
おっしゃる通り、恵まれた環境であるのは確かですが、それが当たり前にあるせいで、長くお住まいの区民ほどその恩恵を実感しづらいところはあると思います。そういったものを改めてお伝えすることで、ご自身の近くでこんな楽しいことがあるんだと気づいていただきたいです。「15分都市に暮らしている」という自認を多くの方に持っていただくことが、シビックプライド(註:昨今、地域活性化において注目されている概念。住民がまちに対して誇りや愛着を抱き、自分自身もまちを良くしていこうという主体性や当事者意識を持つ状態を指す)の醸成にもつながると思います。
まちを想う人をつなぐ協働プラットフォーム「みやこじまFanプール」構想とは。
中井
確かに、日々暮らしているとすべてが「当たり前」になって近視眼的になりがちなので、「気づかせる」「つなぐ」役割を果たしていただけると活気が増しそうです。その「Meetable Town」の具現化に向けて、どんな取り組みを考えておられるのでしょうか。
山下氏
まだ具体的な動きはこれからですが「みやこじまFanプール」というものを構想しています。これは都島ファンの集まりで、都島区で何かやってみたいことがある方や、今取り組んでいるプロジェクトにもっとまちの資源を活かせないか?と考えている人同士がつながって知恵を交換し合えるようなプラットフォームをイメージしています。たとえば「こんなことやりたいんだけど、いい場所がないんだよね」と声を上げると、「うちにこんな場所があるから使ってみたら?」という方が現れたり、「今こういうことをやってるんだけど人手が足りない」という時に「それなら手伝いますよ」と言ってくれる仲間を探せたり……という場ですね。

川口
都島区をもっと良くしていきたいと考えるファンのつながりを増やしていくということですね。どのような方に参画してもらいたいか、具体的なイメージはありますか?区民だけでなく民間企業や大学・研究機関も想定されているのでしょうか?
山下氏
基本的には、単独でやりたいことを実現できる自己完結型のプレイヤーではなく、何かしらの協働を通じて実現したいことがある方ですね。ですから民間企業や商店、個人、学生まで広く参画いただけるプラットフォームにしたいと思っていますが、その仕組みや事務局のあり方についてはまだこれからです。
中井
そういうプラットフォームがほしいというニーズは区民にもあったのでしょうか?
鹿倉氏
はい。ビジョン策定に向けて、2025年にまちづくりに関わるキーパーソンインタビューやワークショップを何度か行った中でも、そういう声はありました。
山下氏
私たちからしても、「あの方とこの方は今はつながりがないけど、考え方やおっしゃっていることは近いから、一緒になればいいものができそう」と思うことはあるんです。私たち職員がそれを個別につなぐのには限界がありますが、自然とつながれるプラットフォームがあれば、いい流れが生まれるのではないかと思いますね。
住みやすいだけでなく「何かを始めたい人」にも最適な都島区のポテンシャル。
中井
15分都市の代表的存在としてパリが挙げられると思いますが、都島区にとって参考になりそうな他都市の事例はありますか?
鹿倉氏
15分都市とは少し違うかもしれませんが、区長は以前から東京・池袋のまちづくりに注目されていたようです。都島区でいうと京橋エリアの参考になる部分が多いかもしれません。
川口
乗り継ぎ駅があるハブ的なまちであることや、公園を使った再開発、美術館の存在など、共通点は確かに多そうです。
山下氏
歩きやすいまちという意味で「ウォーカブルタウン」とも言われていますね。それから都島区特有のメリットとして、徒歩・自転車だけでなく電車も含めると梅田や本町といった都心に15分でアクセスできる点が挙げられます。また新大阪にも近いので新幹線でどこかに行くのも便利です。
鹿倉氏
さらに区内に目を向ければ、北部・中部・南部という3つのエリア同士を15分で行き来できるという面もあり「住んでみるとわかる」メリットはたくさんあるんですよ。
中井
私の場合、最初は北区でマンションを探していたけれど高すぎて都島区にターゲットを移したという経緯で、正直申し上げると、引っ越し前は「北区の隣」程度にしか認識していなかったんです。でも実際に来てみたら自然が多いし暮らしやすいし、資産価値も高いと思っています。
山下氏
住む方だけでなく、新たにお店を開きたい方からも「家賃が高くなりすぎてしまった梅田や天満と違って、都島なら始めやすい」というお声を聞きます。そう考えると、何かを始めるにはいい場所なのかもしれませんね。
鹿倉氏
規模で梅田や本町、ミナミに対抗する立場ではありませんが、そうでないなりのメリットがきちんとあるので、そこを発信していきたいです。
中井
そのポテンシャルの高さに光を当てていくことが重要になりそうですね。
◼︎後篇につづく