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2026/06/19

2代目は、なぜ初代より悩むのか|いのうえの思考 #01

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こんにちは、エンビジョン代表の井上です。

最近、いろんな経営者の方とお話しする機会が多いんですが、ふと気づいたことがあります。

ご相談をいただく方や、普段よくお会いする経営者の中に、2代目・3代目の社長さんがけっこういらっしゃるんですね。会社を親から、あるいは先代から受け継いだ方々です。

で、その人たちと話していて、なんというか……みなさん、すごく悩んでいるんです。

創業者、つまりゼロから会社を立ち上げた人たちと比べると、悩みの深さも量も、明らかに違う。理念を掲げて組織をぐいぐい引っ張っていく、あの創業者特有の力強さが、どうも出にくい。むしろ「自分は何をすればいいんだろう」と、ずっと足元を探しているような方が多い印象なんですよね。

これ、不思議だなとずっと思っていました。

「継げるって、恵まれてるよね」は本当か

世間一般のイメージだと、2代目・3代目って「恵まれている」と思われがちですよね。

すでに事業がある。社員がいる。取引先も、ブランドも、ある程度の地盤ができている。ゼロから始める創業者の苦労を思えば、用意されたグラウンドで戦えるんだから幸せじゃないか、と。

僕も昔は、なんとなくそう思っていました。でも、悩んでいる2代目をたくさん見ているうちに、これ、本当にそうなのかな?と思うようになったんです。

むしろ、逆なんじゃないか。

その「安定」こそが、彼らから大事なものを奪っているんじゃないか —— そう考えるようになりました。何を奪っているのか。僕は「覚悟の着火装置」だと思っています。この話は、あとでします。

2代目の悩みは、3つが絡まっている

その前に、2代目・3代目の悩みって何なのか、僕なりに整理してみます。話を聞いていると、だいたい3つに分けられる気がするんですね。

1つ目は、理念が「借り物」になりがちなこと。

会社にはもう立派な経営理念がある。でもそれは、先代がつくったものです。受け継いだ本人の腹から出た言葉じゃない。だから掲げても、どうしても熱が乗らない。社員にも、どこか他人事として響いてしまう。

2つ目は、「守り」が先に立ってしまうこと。

ゼロから始めた創業者には、失うものがありません。だから振り切って攻められる。でも2代目は違う。受け継いだものを、自分の代で潰すわけにはいかない。この「守らなきゃ」というプレッシャーが、いつのまにか挑戦のブレーキになってしまう。

3つ目は、正統性の不安です。

「先代に比べて、自分なんて」という気持ち。社員からの視線、古参からの値踏み、そして何より、自分自身の中にある「俺でいいのか」という声。創業者には絶対に存在しない”比較対象”が、ずっと隣にいるんですよね。

そして厄介なのが、この3つはバラバラに存在しているわけじゃなくて、互いに絡まって増幅し合うということ。

理念が借り物だから、熱が乗らない。熱が乗らないから、攻めきれずに守りに入る。守ってばかりの自分に、正統性も感じられない。……この悪循環が、2代目をじわじわ苦しめていくんです。

僕自身は、どう超えたか

偉そうに分析していますが、実は僕自身も2代目です。前身の会社を引き継いで、いまのエンビジョンをやっています。

じゃあなんで僕は、この3つの悪循環にハマらずに済んだのか。正直に振り返ると、運というか、特殊な事情が2つありました。

ひとつは、前任者の姿が、結果的に大きな“問い”をくれたこと。

正直に言うと、当時の僕は、前の経営のあり方に強い違和感を持っていました。会社や社員のためというより、判断の軸が別のところにあるように見えたんですね。間近でそれを見ていた僕は、「自分が代表になるなら、こうではありたくない」と、何度も考えるようになったんです。

そうやって「じゃあ、自分はどうあるべきなのか」を必死に考え続けた結果、僕の理念は誰かの借り物じゃなく、自分の中から立ち上がってきたものになった。違和感を覚える存在がいたおかげで、理念が自分のものになった —— 皮肉な話ですが、そう思っています。

もうひとつは、継いだときに、会社がピンチだったこと。

代表になった当時、会社の資金繰りはかなり厳しい状況でした。のんびり「守る」なんて言っていられない。逃げ場が、なかったんです。

だから、腹をくくれた。「もう自分が覚悟を持って、自責で、率先垂範でやるしかない」と。誰かのせいにしている余裕なんて、一秒もなかった。

いま振り返ると、あれは「継いだ」というより、ほとんど「創業し直した」に近い感覚でした。

覚悟は、ピンチからしか生まれないのか

で、さっきの「安定が、覚悟の着火装置を奪う」という話に戻ります。

僕の場合、ピンチがあったから、覚悟が決まった。逆に言うと、安定したファミリー企業を受け継いだ2代目には、その着火装置がないんですよね。何も困っていないから、腹をくくる「きっかけ」が訪れない。これが、安定した会社を継いだ人ほど悩んでしまう、正体なんじゃないかと思うんです。

強い思いというのは、追い詰められたときにこそ、自分の奥深く —— 潜在意識のレベルまで透徹していく。これは経営哲学の世界でもよく言われることですが、僕自身、身をもって経験しました。

じゃあ、ピンチがない人は、一生覚悟を持てないのか。いや、そんなことはないと思っています。

ピンチがなくても、奥深くまで思いを届かせる方法が、ひとつだけある。それは、考え続けることです。

四六時中、「自分はこの会社で何を成したいのか」「この会社は何のためにあるのか」を考え続ける。それを続けていれば、ピンチがなくても、思いはちゃんと自分の芯まで届いていきます。

ただ問題は、人間って、放っておくと考え続けられないんですよね。日々の業務に追われて、いつのまにか「考える」が後回しになる。だからこそ、考え続けるきっかけを、意図的に仕掛ける必要があるんだと思います。

それは、自分の代の「第二創業」だ

ここで、僕がいちばん言いたいことにたどり着きます。

悩んでいる2代目に、「もっとワガママになれ」「自分の色を出せ」と言うのは、簡単です。でも、それができないから悩んでいるわけで、突き放すのは、ちょっと酷だなと思うんです。

だから僕の提案は、こうです。

ひとりで抱えてワガママを言うんじゃなくて、社員と一緒に、自分たちの北極星を決めればいい。この会社はどこへ向かうのか、何のために存在するのか。それを、巻き込みながら一緒に考えていく。

実はこれ、さっき言った「考え続けるきっかけを仕掛ける」こと、そのものなんですよね。理念を全員で問い直すプロセスが、社長自身にも、社員にも、“考え続ける”を強制的に起こしてくれる。ピンチの代わりに、自分たちの手で着火装置をつくるイメージです。

そして、これって要するに、コーポレートブランディングなんです。

ブランディングというと、ロゴとか広告とか、おしゃれな見せ方の話だと思われがちですよね。でも僕たちは、ブランディングを「全社が一丸となって、ありたい姿に向かっていくための、全社変革の活動」だと捉えています。まさに、2代目が自分の覚悟に火をつけるための、仕掛けそのものなんです。

少し前から「ベンチャー型事業承継」という言葉も注目されています。後継者が、受け継いだ経営資源をベースに、新しい挑戦や第二創業に踏み出していく、という考え方です。継ぐことは、守ることじゃない。継いだ地盤の上で、もう一度創業すればいい。

2代目がやるべきは、先代のコピーになることでも、ただ守ることでもなくて、自分の代で、小さな第二創業を起こすこと。僕は、そう思っています。

さいごに

2代目・3代目であることは、ハンデじゃありません。むしろ、ゼロから立ち上げる苦労を引き受けてくれた先人がいて、その上で「もう一度創業できる」という、ちょっと贅沢なスタートラインに立っているとも言えます。

足りないのは、能力でも資格でもなくて、「もう一度創業するんだ」という覚悟と、それに火をつける仕掛けだけ。

あなたは、受け継いだ会社を、ただ守りますか。それとも、あなたの代で、もう一度創業しますか。

僕は、何度でも創業する側でいたいなと思っています。

ライター紹介

井上大輔
エンビジョン代表取締役

2017年、前身となるクリエイティブプロダクションの代表取締役就任、翌年MBOし独立。クリエイティブが担う領域でポジティブな未来を実現させるべくenvisionのパーパス、ナラティブをリードする。envisionと同様のパーパスを掲げる企業・個人が増えることで、社会が、日本が前進すると考えている。