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2026/05/27

唯一無二の「らしさ」で地元に希望を灯す「地域企業」の増やしかた。【前篇】

対談記事

日本各地を見渡せば、その地域に根を下ろしながら、国内外に向けて独自のプレゼンスを発揮して業績を上げているローカル中小企業がいくつも見つかります。そんな「地域企業」を増やして地域を元気にすべく、各地で伴走型のデザイン経営支援を行っているのがミテモ株式会社の代表・澤田哲也様。現場で培われた言葉のひとつひとつには、中小企業が下請け体質を越え、志と自律性を持って変化の時代を生き抜くためのヒントが込められています。

◼︎後篇はこちら

澤田哲也 様
ミテモ株式会社 代表取締役

2011年にミテモ株式会社を設立、2012年より代表取締役。「教育とデザインの力で、誰もが自創する未来をつくる」という理念のもと、日本各地の中小企業を、地域社会と経済を支える「地域企業」として捉え、それら企業を対象としたデザイン経営、ブランド開発支援、新規事業開発、海外進出支援を通して、企業と地域の課題を解決することを目指す。

井上大輔
エンビジョン代表取締役

2017年、前身となるクリエイティブプロダクションの代表取締役就任、翌年MBOし独立。クリエイティブが担う領域でポジティブな未来を実現させるべくenvisionのパーパス、ナラティブをリードする。envisionと同様のパーパスを掲げる企業・個人が増えることで、社会が、日本が前進すると考えている。

藤巻功
エンビジョンCOO兼CBO

事業成長を加速させ、人を動かす「クリエイティブのチカラ」を信じているブランディングの専門家。国内大手広告代理店等を経て、インターブランドジャパンにて戦略ディレクターとして、グローバルを含む多様な業界の大規模プロジェクトを多数リード。その後、楽天グループ、KPMGコンサルティングにてブランディング/マーケティング&クリエイティブを統括。envisionでは、社会課題を解決するWoWなブランド・クリエイティブ開発、ブランディングの民主化に邁進する。

橋本祐介
エンビジョンブランディングディレクター

ブランドコンセプトの策定、CI・ステートメント開発、コピーライティングを基軸とする言葉のスペシャリスト。クライアントの深層に潜む想いを引き出すコミュニケーションを重要視し、企業やプロダクトの特長や「らしさ」をビジュアル・コピーの相乗効果で魅力的に表現することを得意にしている。ご縁あって出会ったクライアントによい未来が訪れ、ともに喜びを分かち合えた瞬間が一番のモチベーション。

スマートな「エデュテック」から、ローカル中小企業への共創型伴走支援にシフトしたわけ。

藤巻
今日は、澤田さんが取り組んでおられるローカル中小企業を対象としたデザイン経営支援についてお聞きしたいのですが、その前に、澤田さんが起業された経緯から教えていただけますか?

澤田氏
私はもともと、現在のミテモの親会社である株式会社インソースにいて、人材育成や組織コンサルティングの仕事をしていました。そこで2008年頃にクリエイティブのチームを立ち上げて、研修の動画化を始めたんです。当時は今のように「動画で学ぶ」という手法など、まだほとんど相手にされていなかった時代でした。それでも「エデュテック(教育×テクノロジーを表す概念)」は注目キーワードになり始めていましたし、今後IT化によって、誰もがごく廉価に教育サービスを受けられる時代が間違いなく来る、と思ったんですね。そうやって動画やデザインの力で、人の意識・行動の変容を支援する仕事を4年ぐらい続けた後に、社長から「お前、別会社を作ったらどうだ?」って言われたんです。

藤巻
企業向け教育コンテンツの制作が起業につながったということですね。そんな中で中小企業支援に移行されていったのは、どのような背景からですか?

澤田氏
起業して最初の5年ほどは、大企業のクライアントに向けた教育コンテンツ提供が事業の中心でした。そこから中小企業にもアプローチを広げていったのですが、中小企業の皆さんからは「もっとコンサルタント的に関わってほしい」というご要望が多かったんですね。つまり、人材育成や組織活性化の重要性はわかるけれども、大企業のようにそこにお金と時間をかける余裕があるかというと、なかなかむずかしい。それよりは、どう売上を上げるかとか、どう販路を広げるかといったことの方が差し迫った問題なわけです。ですから、そのニーズにダイレクトにコミットしつつ、その併走プロセスの中に教育プログラムを散りばめることにしました。その第一歩となる事業が、日本の各地域から世界に羽ばたくジャパンブランドを輩出することをめざして2018年に立ち上げた「JAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL(以下JBPSと略)」です。

伝統工芸界における海外進出の先駆者として知られる京和傘の老舗「日吉屋」の西堀耕太郎氏や、伝統産業のビジネスプロデュースを専門とする株式会社CULTURE GENERATION JAPANの堀田卓哉氏を共同発起人とする「JAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL」。

澤田氏
このJBPSでは、参加企業の新製品・新規事業開発に、私たちやデザイナー、事業プロデューサーが約半年にわたって併走するのが特長です。稼ぐ力を重視する「PL(損益計算書)経営」をしっかり改善しつつ、長期的な企業価値を高める「BS(貸借対照表)経営」も支援するという両軸をやっているチームって意外に少ないんですよね。そのうちJBPSの取り組みを知ったさまざまな自治体からお声がけいただくようになり、これまでに北は旭川から南は鹿児島まで、さまざまな地域に関わらせていただいています。私たちがやりたい地域支援とは、金融機関と連携して黒船みたいな大資本を地方に誘致するスタイルとは根本的に違っています。私たちはもっとその土地から湧き上がってくるものを大切にしたいし、その土地から「逃げられない」人を応援したいと思っています。

中小企業的下請けマインドを脱却し、自社だけの「らしさ」を見つけるために。

藤巻
なるほど。いわゆる大企業向けの支援ではなく、地域に根ざしたカルチャーやリアリティを大切にされているのですね。中小企業の経営課題はこの数年でどう変わったと思われますか?

澤田氏
業種によって違いますが、昔と産業構造が明らかに変わっているセクターでは、このままでは自分たちも消えてなくなるかもしれないという危機感を持っている企業が増えています。

藤巻
人手不足やインフレ、サプライチェーンの変容がある中で、ビジネスモデルの変革の必要にも迫られ、四面楚歌になっている状況かもしれませんね。

澤田氏
はい、人財もキャッシュフローも企画アイデアも足りないけれど、それでも「自分たちは変わらないといけない」という意志はある。いま私たちが行政の皆さんと一緒に支援しているのは、そういった方々です。私たちが彼らにいつも言っているのは、「誰も答えを示してはくれませんよ」ということ。自分たちで潜在顧客を見つけ、その人たちに向けて何をすべきか、自分たちの頭で仮説を立てないとダメだと。その上で、そのターゲットやそれに類する人に自分から話を聞きに行って、仮説の検証を繰り返してください、と伝えています。そうしないといつまでも下請けマインドのままだと思うんですよね。

藤巻
それってつまり「バリュープロポジションキャンバス(以下VPCと略:顧客のニーズと自社製品・サービスの提供価値との関係性を可視化し、顧客にとって本当に価値のある提案を構築するためのフレームワーク)」ですよね。その重要性を理解してもらうために工夫していることはありますか?

澤田氏
新規事業開発をプロジェクト化して、実践の中で学んでいただいています。まず最初にやるのは、自社についてさまざまな人にインタビューして発見したことを「共感マップ」と呼ぶフォーマットにまとめてもらうこと。ペルソナとかインサイトとか、なじみのないカタカナ言葉ばかりが先立つと思考停止になってしまいますし、何より社内の従業員に伝わらないと意味がないので、できるだけわかりやすく、コンセプトも「らしさ」と言い換えたりしています。僕たちがメインとするのは新規事業開発支援ですが、毎回必ず既存事業の意味の捉え直しから入ります。たとえば印刷会社だとするなら、自分たちは印刷という技術を通して、何を大切にして、社会にどんな価値を提供したかったのか?を問うて、それを言葉にしてみる。それが自分たちの「らしさ」です。

井上
似たようなことを、私どもエンビジョンも普段クライアントと接する時にいつも考えています。
ところで、澤田さんたちが推進するデザイン経営に対する理解度は、企業や人によってかなりばらつきがありそうですね。新しい考えを受け止めて実践できるかどうかは、どこで差がつくんでしょうか。

澤田氏
自社の技術に対して自信を持っている企業は多いですが、マーケティングや顧客の心をつかむ伝え方を、自分たちなりに考えてトライしたことがある企業は少ないし、ましてやそれによって誰かに評価されたとか選ばれたという成功体験を持つところはさらに少数派です。そういう成功体験を持たない企業ほど「デザイン思考なんて、何の役に立つんだ」と疑心暗鬼になるし、ブランド価値づくりの苦労を避けて、これまでどおり技術や価格でなんとかしようとする傾向があると思います。「デザイナーがいるんだから、何を作ればいいか指示してくれたら、なんでも作ります」とか「他の会社がこれを作って売れたからうちも」というスタンスになってしまう方が多いのもそのためです。でも、それでは自分で試行錯誤して価値を創出する習慣が身につかないですね。

藤巻
中小企業の経営陣のみなさんにも、視座(目線の高さ)、視野(範囲の広さ)、視点(多彩な角度)の3つの転換が大切だと思います。

クリエイターの「ソト目線」がもたらす気づきを、提案型経営のヒントに。

橋本
澤田さんたちが併走される中で、クライアントの経営層のみなさんの態度・行動の変容はどのように起きるのでしょうか?

澤田
それこそVPCを作って、お客さんとの話し方を変えてみると、必ず発見があります。「思っていたのと違う」という反応もあれば「こういうことが響くのか」という気づきもある。最初は「そんな『自社らしさ』とか『存在意義』なんて哲学的なことを言われても……」と尻込みしていた企業も、そんな発見を半年ほど積み重ねるうちに変わってきます。下請けマインドを脱却するには、そういう実体験を積んでもらうしかないんですよね。自社の成功体験がないうちは、他社の実績を見るのでもいい。そこで有効なのがコミュニティの力です。何社かで一緒に「よーいドン」で走り出して、他社が何をやって成功したのかが見える場づくりが大事だと思っています。

藤巻
中小企業に多いプロダクトアウト思考が必ずしもNGとは思いませんが、おっしゃるような提案型経営にシフトするまでには相当な溝があると思います。その溝を越えるのは、「らしさ」に気づくだけではむずかしくありませんか?

澤田
だからこそ、外部の専門家を入れたチームを作るようにしています。僕たちが実践する事業プロトタイピングのプロセスはだいたい4人体制をとることが多いのですが、その内訳はまず経営者。それからコア戦力となる従業員で、かつ現場がわかっている方。そこへデザイナーやプロデューサーといった外部ブレーンにも加わってもらいます。事業設計ができあがって初めてクリエイターとマッチングするのではなく、デザイン視点を持った人にもっと手前の文脈づくりから入ってもらうのがポイントです。そうすることで「VPCは的確で試作品もいいのに、いざポスターやキャッチフレーズを考えようとすると、モノのスペックばかり語ってしまう」という状況が起きた時に、それは目指していた文脈と違うでしょう、と引き戻してもらえるんです。

チームでのディスカッションの様子。外部のクリエイターの目線を借りて、当事者にはなかなか客観視しづらい自社の価値を可視化しやすくします。

藤巻
どうしても現場職は近視眼的になりがちですが、俯瞰する鳥の目と、地を這う虫の目と、両方を取り入れたチーム編成が大事なんですね。

澤田
気をつけないといけないのは、経営者が新規事業開発に夢中になりすぎると、既存事業に関わる社員が、まるで自分たちが置き去りにされたように感じて、モチベーションを下げてしまう可能性があることです。そうなるといざ生産ラインを動かそうという時に「できません」というネガティブ反応をされてしまったり、場合によっては社内に対立構造を生むこともあります。ですから既存事業を担当している人や、社内で強い影響力を持っている人をうまく巻き込んで、「この人が言うことなら他の従業員も耳を貸す」という状況を作ることが大事ですね。

自社に宿る「根源的で偏愛的な欲求」を見つめ直して、共感してくれる人財の確保へ。

藤巻
未来の「あるべき」姿を描き、そこから何をするべきかを考える「バックキャスティング」と呼ばれるアプローチ。これは新規事業開発で検討されますね。また現在の状況を起点に考えていく「フォアキャスティング」のアプローチは、既存事業の改善・進化で有効です。ただ、これらは二項対立ではなく、いわゆる両利きの経営が問われるところだと思います。未来は誰にも予測できるものではなく、自ら想像し、志に基づいて創り上げていくものですから、その企業の特性やカルチャーに合ったアプローチをどうやって掴むかが重要ですね。そこでは組織マネジメントも問われると思いますが、人手不足の中で採用活動も大きな課題ですよね。

澤田氏
確かに人手不足はこの3〜4年、中小企業にとっては新規事業開拓より大きな課題です。でもその一方で、企業側にも自社の事業ポートフォリオに合わせた採用戦略がないのは問題だと思っています。

藤巻
良い人財を採用することに対する諦めがあるといいますか「欲しい人財」の要件定義がないんですね。もっと自分たちが実現したい未来の事業やカルチャーにフィットする人財のイメージを明確に描いて、それを発信していくべきで、私どもはそれを採用ブランディングと捉えています。

澤田氏
もちろん中には、優秀なブランドマネージャー候補を獲得するぞという明確な意志を持って動いて、結果的に企業風土の刷新や事業成長につなげられた企業もあります。けれど大半は、人件費を惜しむ気持ちもあるのでしょうが、優秀な人を採ろうとせずに、「うちの仕事は誰でもできる」と自社の価値を固定化して考えているのが現実です。結局それも「らしさ」に対する自信がないからで、圧倒的に誰かに共感してもらった経験が足りてないんだと思います。

藤巻
経営者が考えていることと、言語化されたアウトプットが合っていないのはよくあることで、アウトプットだけ見ると「顧客第一主義」とか「安心安全」とか、誰でも言えるようなことしか言ってないケースが多いです。でももう一歩踏み込んで聞いてみると、その会社にしかない「想い」の部分が出てくるんですよ。そこが採用シーンで伝わっていないのが惜しいと思います。

澤田氏
私は中小企業の「らしさ」って、もっと泥臭くて自己満足的で偏愛的なものでいいと思っています。そういうマニアックな欲求の中にこそ、その会社の言語化されていない根源的価値があったりしますから。なのに、それを伝えるボキャブラリーやスキルを持たないゆえに「お客様のニーズにお応えします」みたいな優等生的表現になってしまう。

井上
エンビジョンが以前にお手伝いした手がけた大工さんのブランディング事例も、まさにそうでした。ただひたすら「かっこいいものを作りたい」という思いで仕事をされていて、それがあらゆる事業活動に組み込まれているのに、言語化も可視化もされていませんでした。ですから私たちが取り組んだことは、すでにそこにあるものを可視化して磨き上げることだけ。飾る必要など何もありませんでした。

エンビジョンがブランディングをお手伝いした、大阪府四條畷市の木又工務店のコーポレートサイト。かっこいいものを作りたい大工職人の「木の家へのこだわり」を可視化。

◼︎後篇につづく